市場対国家(上巻) の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
歴史を学びたい。本気でそう思った。 「銀河英雄伝説」というサイエンスフィクションがある。この中で出てくる主人公の一人「ヤン・ウェンリー」。作中では軍事の天才。その源泉は歴史に精通しているということ。 私はITエンジニア。そしてイノベーターとして研究/開発も従事。また、ITシステムの企画/提案などを行っている。 当初「技術」に特化していればうまくいく。そう信じていた。一方、技術系の経営層トップ。彼がよく言っていたのが「テクノクラートたれ」。当時全く理解できていなかった。 市場はどう動くか。それは歴史から学べる。会社経営。これも歴史から学べる。人類は似たような状況に陥れば取る行動も似てくる。集団でのそれはあるパターンを形成する。 良き仕事をしたいのであれば集団や社会のダイナミクスをも考慮にいれる。そしてそのお手本が歴史。過去から学ぶということだ。 成功とは自分にとって都合が良い未来を引き寄せること。その確率が高い選択をすること。 本書はそのためのヒントがある。技術やから見ると正直文章はまどろっこしい。一方、それはできるだけ史実通りにしているということ。 こういう文体にも慣れておくことは有用。改めてそう思った。
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ピューリッツァー賞受賞のノンフィクション作家と国際政治アドバイザーの共著による20世紀の世界史を「経済成長のカギを握るのは市場か国家か」というパースペクティブから構築した大著。これがとんでもなく面白く、エキサイティング。 前者の考え方はケインズに代表される計画経済やソ連・中国な...
ピューリッツァー賞受賞のノンフィクション作家と国際政治アドバイザーの共著による20世紀の世界史を「経済成長のカギを握るのは市場か国家か」というパースペクティブから構築した大著。これがとんでもなく面白く、エキサイティング。 前者の考え方はケインズに代表される計画経済やソ連・中国などでの共産主義であり、一方後者の考え方はハイエクに代表される小さな政府を志向し市場経済を信じる立場となる。結局のところ、20世紀の経済史はこの両極の間で常に揺り動きつつ作られてきたということが良く分かる。 20世紀初頭に過信されていた市場経済が世界大恐慌で破綻し、資本主義下ではケインズ経済学に基づく計画経済が、共産主義下では国家による大規模な計画経済が構築され、国家による経済統制がいったんは主流になる。ソ連の計画経済は1950~1960年代にその高い経済成長と科学技術の発達からもてはやされ、資本主義下でも国有化等の施策が相次いで行われたが、その非効率性から次第に経済成長が低迷した80年代、資本主義下ではイギリスのサッチャリズムとアメリカのレーガノミックスによる「小さな政府」を志向する市場を重視した経済政策が現れる。共産主義下でも中国で市場経済を部分的に導入する鄧小平による改革開放路線が登場し、経済成長のカギを握るのは国家ではなく市場であるという考え方が覇権を握ることになる。ただし、そうした市場中心の経済は1990年代のアジア大恐慌、そして2000年代のリーマンショックにより見直されつつもあり、21世紀に入っても、依然この両極の間でどうバランスを取りながら経済成長を実現するかが各国の政策で議論されているのは言うまでもない。 上巻では、その力が過信されていた市場が崩壊した世界大恐慌と、ケインズの理論に基づくニューディール政策等の国家による経済統制とソ連・中国での共産主義の勃興、先進国での計画経済が見直されるきっかけとなったイギリスでのサッチャリズム、アジア諸国の経済成長と中国の改革開放路線までが描かれる。特に、一章を割いて描かれるイギリスのサッチャリズムの登場は彼女の強いリーダーシップと信念の政治を実感できる内容になっており、充実した内容。
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国家権力が市場に対してどのような行動をとってきたのか、その変遷について考察した本。 上下巻でありボリュームがあるが、文章はとても読みやすく意外とあっさり読めた。 第二次世界大戦後からアジア通貨危機頃までをとりあげてかかれている。 経済事象を取り扱っている本には珍しく人々の考え方...
国家権力が市場に対してどのような行動をとってきたのか、その変遷について考察した本。 上下巻でありボリュームがあるが、文章はとても読みやすく意外とあっさり読めた。 第二次世界大戦後からアジア通貨危機頃までをとりあげてかかれている。 経済事象を取り扱っている本には珍しく人々の考え方に注視して書かれているのは面白かった。 歴史的事実というよりは取材による当事者達の考え方に重きを置いている。 全体的に市場万能論よりな書かれ方がしている気もするが、時期的に社会・共産主義国家が次々と民主化、市場開放をしていた時なのでしかたがないかもしれない。
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本書は上下巻に分かれていてかなりボリューム感はありますが、非常に読みやすい文章ですので、サクサク読み進めていくことができます。 内容は戦後における世界経済の動向を、膨大な調査資料をもとに具体的に描き出したものとなっています。 本書の主軸は確かに「"市場"対&...
本書は上下巻に分かれていてかなりボリューム感はありますが、非常に読みやすい文章ですので、サクサク読み進めていくことができます。 内容は戦後における世界経済の動向を、膨大な調査資料をもとに具体的に描き出したものとなっています。 本書の主軸は確かに「"市場"対"国家"」ですが、一方で本書からはまた別の軸を読みとることができます。 "経済"・"政治"・"文化"です。 人々にとっての"経済"とは「生きること」に他なりませんが、だからこそ"経済"は他のあらゆる領野に先行します。 民主主義制度下においては常に"経済"が"政治"に対して要求するのであり、飢餓への危機感が政治における一票となってサッチャーという首相を生み出し、また共産主義への幻想をつくり出しました。 イデオロギーも文化も、民主主義制度下においては後から遅れてついてくるものにすぎないということです。 本書が描き出した構図は、現在においてもなお重要な示唆を与えてくれます。 小難しい議論や抽象的な概念もなく、非常に楽しくかつ有益な書となっていますので、お薦めです。
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ケインズ:考え方は、「一般に考えられているよりはるかに強力である。世界を支配しているのは、考え方以外にないといえるほどである。・・・・本当に危険なのは、既得権益ではなく考え方なのである。 小泉政権の構造改革は1980年代の英国サッチャー首相のサッチャリズム(小さな政府)の踏襲であ...
ケインズ:考え方は、「一般に考えられているよりはるかに強力である。世界を支配しているのは、考え方以外にないといえるほどである。・・・・本当に危険なのは、既得権益ではなく考え方なのである。 小泉政権の構造改革は1980年代の英国サッチャー首相のサッチャリズム(小さな政府)の踏襲であり、20年遅れの改革である。
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