半七捕物帳(巻の1) の商品レビュー
シャーロック・ホームズもそうですが。 原初、オリジナル、先駆者、パイオニア…そう言った作品に独特の、風格というか、大人の雰囲気っていうのがあります。 細かい、飽きさせない芸とか、どぎついツカミとか、引っ張りとか、業界ものみたいな詳しさとか、そういうことではなくって。 実に堂々とゆ...
シャーロック・ホームズもそうですが。 原初、オリジナル、先駆者、パイオニア…そう言った作品に独特の、風格というか、大人の雰囲気っていうのがあります。 細かい、飽きさせない芸とか、どぎついツカミとか、引っ張りとか、業界ものみたいな詳しさとか、そういうことではなくって。 実に堂々とゆったりと。そして、その舞台の街の息遣いが聞こえてくるような、ハっとするような瑞々しさ。 半七捕物帳。岡本綺堂。恥ずかしながら初めてでした。 「面白いよ」と、前々から聞いていて。 渋好み、歴史時代小説通、近代日本文学好き、読書マニア…そんな人たちから、評判は聞いたり読んだり。 電子書籍になってるので、ふと読んでみました。 江戸の岡っ引きの「半七親分」。幕末に活躍した設定。 仕組みとしては、明治に入ってから、とある青年が、老人・半七から往時の話を聴く、というスタイルをとっています。 ちょっとおどろどろしい趣の話がありつつ、人の業というか、欲と色との破滅劇を淡々と見守る視線。 池波正太郎さんに受け継がれたんだなあ、と感じました。 幕末の江戸時代の、街の匂いというか、風俗が、実に気負わず、するっとさらっと、味わいたっぷりに書かれています。 むしろその、市井の人々の名も無き背中のぬくもりを感じるのが、いちばんの魅力とも言えます。 無論のこと、岡本綺堂さんはシャーロック・ホームズなどを意識して書いて居るのだと思います。 そうなんだけど、それが見事に、江戸の街中に溶け込んだ感じが。 当時のロンドンと、勝るとも劣らぬ大都会だった江戸。 そんな微妙に、自分の親、祖父母、故郷を、ささやかに密やかに誇らしく愉しむような、そんな読書でした。 渋い。 ※ 以下、各話の個人的な備忘録。 ################### ●お文の魂 女好きの悪党坊主がいた。 ある奥方様と幼い娘が、言いくるめられた。 草草紙に出てくる「おふみ」という女の幽霊が出るぞ、出るぞ、と。 信じ込んでいた母娘を、半七が助ける。 ●石灯籠 死んだはずの娘が、屋敷に戻ってきた。またいなくなった。 石灯籠の足跡?から、身軽な女が化けている、と暴いた。 犯人は軽業師の女。 ●勘平の死 素人芝居で忠臣蔵。 勘平自害の場面で、若旦那が本当の刀で切腹、死んでしまった。 恋敵になっていた使用人が、刀を入れ替えていた。 ●湯屋の二階 湯屋の二階、という、喫茶店とキャバクラの間みたいな場所。 そこに入り浸る謎の武士たち。 実は、敵討ちの使命を帯びた不良侍だった。 ●お化師匠 若い娘をいじめ抜いて、「お化け師匠」と呼ばれる中年女が死んだ。 蛇が首に巻きついていた。 犯人は、若い娘の恋人の男だった。 ●半鐘の怪 半鐘が勝手になりだす事件があった。 犯人は猿。 犯人と誤解された不良少年がいたずらしたりして、混乱した。 ●奥女中 大名の奥方様。娘が死んだ。気が触れた。 よく似た町娘を拉致して、身代わりにしていた。 それを知った悪党が、成り代わってゆすろうとしていた ●帯取の池 心中の男女。 女が死んでから、男は怖くなり、帯だけもって逃げ出して、 池に帯を捨てていた。 ●春の雪解 妾が、恋敵を殺していた。 きっかけは、盲人が「あの家はなんとなく怖いから」と。 ●広重と川獺 武家屋敷の屋根に少女の死体。 鷲が運んでいた。 川獺がヒトを襲うことがある。 川獺に襲われた人が、自分の女の間男に襲われたことにして、訴える。 川獺があがって、それが露見する。 ●朝顔屋敷 子供の塾のようなところ。大身の息子が、ひょんなことからいじめに合う。 それを回避するために、登校拒否。 神隠し、ということにして屋敷内に隠れていた。 渡り中間みたいな悪党がそれをネタに金を取っていた。 ●猫騒動 猫好きな老女が、近所に責められて猫を手放す。 だが、猫が乗り移ったようになり、殺される。 ●弁天娘 金持ちの商家の娘が、使用人とデキていた。 遊びで針をついて、男は病死。 ネタにゆすられて金を払う娘の両親。 ゆすった悪党の女は、亭主も殺す。
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(全巻合わせた感想) ともかく面白かった。ストーリは単純で強引な推理と捕物ではあるが、それよりも何よりも江戸の描写が活き活きと表現され、江戸を生きていた人達と身近に接した時代の人でなければ書けない本だと感嘆する。 江戸時代の情景が浮かんでその世界にどっぷりと浸り酔いしれるという...
(全巻合わせた感想) ともかく面白かった。ストーリは単純で強引な推理と捕物ではあるが、それよりも何よりも江戸の描写が活き活きと表現され、江戸を生きていた人達と身近に接した時代の人でなければ書けない本だと感嘆する。 江戸時代の情景が浮かんでその世界にどっぷりと浸り酔いしれるという読書は初めてで充分堪能できた。更にこの本は文末にその話に関係する地図(昭和初期の地図に江戸の図割を追加したもの)があり、挿入画も江戸時代の物を書き起こしたものである。 描写例 「卯の花くだしの雨が三日も四日も降りつづいて」 「八百屋にも薄や枝豆がたくさん積んであった」 「あしたが池上のお会式(えしき)という日の朝」 「節気になったせいか、寒さがこたえますね」 注釈も今井金吾が丁寧に解説している。
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捕り物帳では,古典中の古典と若干敬遠していたけれど,読みやすくてびっくり。90年以上前に書かれたとは思えない。歯切れのいい江戸言葉が心地よい。
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