1,800円以上の注文で送料無料

虚数 の商品レビュー

3.9

18件のお客様レビュー

  1. 5つ

    5

  2. 4つ

    2

  3. 3つ

    6

  4. 2つ

    0

  5. 1つ

    0

レビューを投稿

2023/12/12

〈序文〉  情報洪水という見方はもうアップデートしても良い頃合いだと思う。エコロジーそのものが、外的情報の海洋領域と、内的情報の陸地領域のバランスを決定的に変えてしまったとみるべきだ。  この段階では直接情報を自分の五感で摂取しなくとも、食物連鎖による生物濃縮のように、他者や環...

〈序文〉  情報洪水という見方はもうアップデートしても良い頃合いだと思う。エコロジーそのものが、外的情報の海洋領域と、内的情報の陸地領域のバランスを決定的に変えてしまったとみるべきだ。  この段階では直接情報を自分の五感で摂取しなくとも、食物連鎖による生物濃縮のように、他者や環境を通して間接的にどんどん情報を摂取することになっている。もうスマホと閉じても、テレビを消してもしょうがないところまで来ている。  さて、そのなかで内臓音楽なる自然的な創作物を望んでいる著者のスタイルも今では珍しくない。解毒や治癒としての対処療法。そのための文学、芸術。が、そのものがさらにこの情報環境全体に取り込まれていく状況。  パブリックから切り離されたプライベートな領域に置ける、個人的に重要な意味を持つ芸術や文学。孤独から生まれた孤独へと帰っていくような、暗室のなかの灯りのようなもの。  それが序文のための序文、もといメタフィクションであるのかどうかは別として、純粋な虚構性を探しに行こうと旗揚げしたこの序文には、錆びない切れ味が宿っているように感じた。(2023/12/12)

Posted byブクログ

2018/01/21

未来に出版されるはずの本への序文集――としての 短編小説集というメタフィクショナルな一冊。 「架空の本」の批評ではなく、 この先“書かれるに違いない作品”について 「序文」の形式で前以て概要を語ってしまおうという点が、 ボルヘスと少し異なるが、  > 長大な作品を物するの...

未来に出版されるはずの本への序文集――としての 短編小説集というメタフィクショナルな一冊。 「架空の本」の批評ではなく、 この先“書かれるに違いない作品”について 「序文」の形式で前以て概要を語ってしまおうという点が、 ボルヘスと少し異なるが、  > 長大な作品を物するのは、  > 数分間で語りつくせる着想を  > 五百ページにわたって展開するのは、  > 労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。  > よりましな方法は、  > それらの書物がすでに存在すると見せかけて、  > 要約や注釈を差しだすことだ。 というボルヘス『八岐の園』~「プロローグ」 (岩波文庫『伝奇集』p.12)での《宣言》と、 精神的に相通じる一冊。 本書全体の序文を書いた 梅草甚一(!)なる人物――肩書きは日本挨拶学協会会長――も、  > たとえいい本であったとしても、  > 量があまりに多くなれば、  > それは単なる騒音となり、  > 人は情報の大海に溺れてしまう。【略】  > 本当なら分厚い本をもっといくらでも書けるのに、  > そこをあえて自制して、  > 最小限の形式の書評や序文で  > 〈書くことへの欲望〉を  > 処理したのではないだろうか。(p.2-3) と述べているとおり、 SFからミステリから何から 一通り書き尽くしてしまった碩学の作家が その後に着手したのは、 大きな物語を圧縮する試みという体裁を取った 「一つ上の次元」の著述だったのだろう。 内容は、 特殊な撮影方法による写真集に付された 序文(という体裁のフィクション), アマチュア細菌学者の、 培養基に入れたバクテリアに刺激を与え、 モールス符号で文章を綴らせるという実験の記録, 人の手を介さず、 コンピュータが小説を綴るようになった時代、 そうした作品は「ビット文学」と呼ばれた…… ということで論述される「ビット文学史」。 1970年代に、 AIが小説を書き上げるようになった現代の状況を 透視していた作者レムの「予見」の鋭さに戦慄。 そして、 未来の予測に基づいて記述された(!)項目から成る 百科事典の宣伝パンフレット及び 付録の本体見本ページという構成(=設定)の フィクション。 ラストは「GOLEM XIV」。 これは General Operatior,Longrange,Ethically Stabilized Multimodelling =「長期倫理的安定化マルチモデル汎用オペレータ」略称GOLEM と名付けられたコンピュータ・シリーズが ホワイトハウス附属機関の最高位に就任したり、 陸海軍の最高司令官として指揮を執ったり、 ヒトとは何かを論じた講義を行ったりして、 バージョンアップの度に自我を肥大させていく様子を 描いた作品。 ゴーレム(golem)という語が、 ユダヤ教の伝承に登場する自力で動く泥人形で、 胎児の意であることを思い出すと、 彼が好き放題に振る舞う歪んだ子供のように感じられる。 しかし、彼を作った人物が 命令文を少し書き換えれば元の土塊に戻るはずなのだ…… と思ったものの、どうやら彼はその手を逃れ、 ヤコブの梯子の彼方の宇宙へ遁走したらしい。

Posted byブクログ

2017/11/30

架空の書物の序文集。ものすごくエキサイティング。特に「GOLEM XIV」は圧巻。進化と言語に纏わる講義はまさに読みたかったテーマでした。これほどスケールの大きな話でありながら単なる法螺やファンタジーとは言わせない圧倒的知識と洞察力。レムの巨大さを改めて実感しました。

Posted byブクログ

2015/09/15

アイロニカルに「夢」を語る方法 レムの「架空の書籍の書評」という方法は(ローティ的な意味で)「アイロニスト」的な表現手法だと思います。「公共的な科学言論」ではなく「私的なファンタジー」として科学に関する思想を書くことによって、争いを避けられるというわけです。 おちゃらけ、とい...

アイロニカルに「夢」を語る方法 レムの「架空の書籍の書評」という方法は(ローティ的な意味で)「アイロニスト」的な表現手法だと思います。「公共的な科学言論」ではなく「私的なファンタジー」として科学に関する思想を書くことによって、争いを避けられるというわけです。 おちゃらけ、というか、ユーモアを含んだ表現も、その意味では本書に必要不可欠な要素だと言えます。ふざけた表現でも、内容を理解して共感してくれる人にはちゃんと伝わるし、そうでない人にとっては「真面目に批判する気が起きない」ので争いにならないというわけです。つまり、前者にとっては「ユーモラスな表層の裏に、骨太な思想が隠れている」ように読めますし、後者にとっては「とるにたらない妄想」として読まれるわけです。

Posted byブクログ

2015/06/10

架空の書物についての序文と講義が収められた作品集。「完全な真空」と対になっているようにも感じるけど、もっと突き抜けた印象も受けた。難解ではあるけど、今作もフィクションと現実の境目が曖昧になっているような感覚には惹かれる。

Posted byブクログ

2015/03/24

『完全な真空』と対になる本作は、『架空の書物』の『序文』……という設定の短編集。 『書評集』であった『完全な真空』とは異なり、褒めているんだか貶しているんだか判然としないシニカルさは薄いが、書かれることのない本編(?)を読んでみたくなるのは同じ。つい、勿体ないと感じてしまう……。...

『完全な真空』と対になる本作は、『架空の書物』の『序文』……という設定の短編集。 『書評集』であった『完全な真空』とは異なり、褒めているんだか貶しているんだか判然としないシニカルさは薄いが、書かれることのない本編(?)を読んでみたくなるのは同じ。つい、勿体ないと感じてしまう……。 本作で一番読みたいのは『ヴェストランド・エクステロペディア』。これしかないでしょう。百科事典が大好きな人間には垂涎もの。ああ、何故これが架空の書物なのか……。 本作では『完全な真空』のメタフィクション的な部分がかなり増幅されている……という読後感。また、巻頭の『日本語版への序文』も、それに乗っかるような形になっている。こういう『遊び』の部分も含めて面白かった。

Posted byブクログ

2014/02/25

5つ星に近い傑作。奇想天外なテキストたち。圧巻はコンピューターGOLEMの講義。全ては理解できないが、荒唐無稽で説得力ある精緻な文章には感嘆する。

Posted byブクログ

2014/01/09

わあ。夜中に読み始めたら眠れないくらい脳を刺激。しかも架空の書物を取り上げているので、そちら方面好きにはたまらない。ヴェストランド・エクステロペディアの話とかどんどん膨らみそうで楽しい。

Posted byブクログ

2019/06/02

[関連リンク] boooook - 「虚数」 スタニスワフ・レム 国書刊行会 読了。: http://boooook.tumblr.com/post/26487397162

Posted byブクログ

2012/01/14

いやあ、奇書なんでしょうね。半分以上の跋文と奇妙な文体。SFなのか言語論書なのか哲学書なのか。「虎よ、虎よ!」に似ている感じだが、やはりレムなんでしょうね。

Posted byブクログ