理性法思想の成立 の商品レビュー
前批判期のカントの思想や所有権のカント哲学的基礎づけ、そしてカント及びフィヒテを中心としたドイツ政治哲学の意義の究明が主題となっている研究書。カント哲学に内在し、そこに歴史的限界とともに現代世界に対する批判的意義を見出そうとしていることは高く評価できる。しかしながら、カント思想が...
前批判期のカントの思想や所有権のカント哲学的基礎づけ、そしてカント及びフィヒテを中心としたドイツ政治哲学の意義の究明が主題となっている研究書。カント哲学に内在し、そこに歴史的限界とともに現代世界に対する批判的意義を見出そうとしていることは高く評価できる。しかしながら、カント思想がいかなる歴史的条件の下で形成されたかについては、冒頭論文以外でははっきり言って非常に不満の残る究明しか為されていない(無論、歴史学における18世紀ドイツの政治体制の評価の仕方が変遷していることを考えると仕方ないかもしれないが)。フリードリヒ2世の統治を単純に啓蒙専制主義と位置づけたり、ドイツ知識人の「非実践性」を前提として受け入れている点などには、明確な批判を加えたい。フリードリヒの統治については彼自身の統治理念の研究である『紀律と啓蒙』や法典編纂に邁進したスアレツなどの理念についての研究などを見る限り、単純な「専制」と位置づけることは厳に慎まなければならない。また18世紀末ドイツ知識人の非実践性という非難は、革命信仰や行動主義信仰を共有していない人間には中々理解できない代物である。 兎にも角にも、カント研究のたたき台として非常に有用なのは間違いない。
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