ヴォルフの国際法理論 の商品レビュー
未だ評価の分かれるクリスティアン・ヴォルフの国際法論を、「意思国際法jus gentium voluntarium」概念に焦点を併せて体系的に解明する研究。構成としては、ヴォルフ以前のユース・ゲンティウム概念の歴史、ヴォルフの意思国際法論、ヴァッテルの意思国際法論の三章構成になっ...
未だ評価の分かれるクリスティアン・ヴォルフの国際法論を、「意思国際法jus gentium voluntarium」概念に焦点を併せて体系的に解明する研究。構成としては、ヴォルフ以前のユース・ゲンティウム概念の歴史、ヴォルフの意思国際法論、ヴァッテルの意思国際法論の三章構成になっている。まず、ヴォルフ以前のユース・ゲンティウム概念でも、グロティウスによる「ユース・ゲンティウム・ヴォルンターリウム」概念の提唱とそれに対するプーフェンドルフの批判が重要な契機である。もちろんこの論点は、ユース・ゲンティウムを自然法と捉えるか実定法と捉えるかに関わっている。ヴォルフは、自然法としての国際法=自然国際法と実定法としての国際法=意思国際法という分類を提唱することによって、この論点を調停しようとする。その際に、意思国際法の実定性を確保するのが、ヴォルフの独特の国家概念、すなわち、世界規模の「一種の主権」を有する「世界国家civitas maxima」であった。個別国家が有する立法権とのアナロジーによって、世界国家にも立法権を認めることによって、ヴォルフの意思国際法概念が、当時の国際情勢に対して一定の批判的見地を確立したとされる。しかし、ヴァッテルはこの「世界国家」概念を否定しつつ意思国際法概念を継承しようとしたために、ヴォルフが意思国際法概念に持たせた批判的機能を喪失させ、国際慣行を実質的に実定的国際法として認定してしまうという危険性を孕むことになったとされる。ヴォルフの膨大な著作から、彼の論理を極めて整理されたかたちで析出しつつ、ヴォルフの国際法論の持つ意義を明快に打ち出している点で、非常に読み応えがある。加えて、日本ではとりわけ情報が少ないヴォルフの自然法論・実践哲学についても相当の分析が加えられており、必ずしも国際法論にこだわりを持たない人間にとっても有益な研究になっている。
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