アテネ の商品レビュー
旅する21世紀シリーズ『望遠郷』と題されたこのシリーズは、欧米を中心とした外国都市のガイドブックである。(『望遠郷』について書きますが、「アテネ」について書くわけではないことをご了解ください)フランスは大手Gallimardから出た、Guides Gallimardシリーズなの...
旅する21世紀シリーズ『望遠郷』と題されたこのシリーズは、欧米を中心とした外国都市のガイドブックである。(『望遠郷』について書きますが、「アテネ」について書くわけではないことをご了解ください)フランスは大手Gallimardから出た、Guides Gallimardシリーズなのだが、このシリーズを刊行した今は無き同朋舎出版という京都の出版社に賞賛を送りたい。そしてこのシリーズはもう二度と刊行されることはないだろう。 この本の素晴らしさは表紙からもわかるように、徹底的に都市をビジュアル化して、細部の隅々まで解説したことにある。もちろん一国の首都あるいは文化・歴史的に重要視される都市を厳選しているのはいうまでもなく、建築・美術・文学における都市というさまざまな視点から描かれていることがこのシリーズの特色である。(ただし、フランスの出版社が作っただけあって、フランスびいきな点がみられることは否めない。)建造物や美術品などのカラー写真の多さもさることながら、建築構造の断面図解が最大の特色である。(同朋舎出版はビジュアル本に力を入れていた出版社で、他にも海外の翻訳出版を刊行していた。) このガイドブック一冊まるごと頭に吸収しておけば、この都市について大概のことは知れるだろう。しかし但し書きがつく。ひとつは文化的観点重視のガイドブックなので、いわゆる観光・ツアーにおいて必要なホテルの予約だとか、ショッピングのための情報などは期待しないほうがよいこと。二つ目はこの本に夢中になった読者ははたして、その都市を訪問しようと思うのかどうか。つまり、このガイドブックで満足してしまうのではないかという点である。もちろん、実際に訪ねる経験とその土地の情報を知ることは別の経験に属すであろう。けれど、知識を得る段階によるのだと思うが、ただ名ばかりを知っている都市に赴くのと、事前に調べに調べた都市に赴くのとでは、直接的な経験に大きな違いが生じるのではないかということである。 「旅と書物」のつながりは、なかなかに不思議なもので、誰かがその土地について書き綴らなかったならば、その土地の存在すら知らないという事態がいくらでも起きていただろう。土地を知るということが世界を知ることと結びつくゆえんである。またそれは日々のニュースでも感じられる現象であって、陰惨な殺人事件がわが国のとある場所で起こったときに、はじめてその土地の独自性をひとはすすんで窺いみる。これまでは未知に等しいその土地が自分にとって無名にすぎなかったことが、土地の名を頭に刻むことで、その土地の存在をおのずと形づくるようになるのである。
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