卑賤観の系譜 の商品レビュー
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1997年刊。著者は中京大学教養部教授。 天武朝を中核に(平安時代中期まで)、古代日本の卑賤身分の成立過程を、中国北魏以来の律令制下の卑賤身分の在り方とを比較しつつ論じていく。 元来、①科刑又はその連座に由来する奴夷への転落と、②被征服民や捕虜に由来する奴婢とは明快な分類法であろう。 しかし、その中でも①の要素が卑賤身分への蔑視や穢れた存在という認識を生み、これが出自の違う他の卑賤身分全体へと波及していったと見えるのが印象的である。 その上で、寺で生活する奴婢が、創建者氏族の没落によって発生するという指摘が興味深い。 例えば、山背大兄皇子が蘇我氏に滅ぼされた結果、父聖徳太子建立の法隆寺へ、上宮王家の家人が寺奴婢として廃された点がそれに相当する。恵美押勝の乱後、称徳天皇建立の西大寺に押勝家人らが寺奴婢化したのも同様。 一方で、物部守屋敗死後に、上宮王家の四天王寺に物部家人が寺奴婢化したのは、先の②の典型と言えそう。 後に、敗北勢力側故に寺奴婢化した集団は、解放を求め反旗を翻す場合もあったようだが、奏効するのは皆無に等しかったよう。 それも、結局は先の①とその拡大に起因しているようだ。が、逆に言えば、寺に囲い込まれることで、穢れが周囲に伝播しないという意識を生じせしむと共に、寺のアジール性が中世にかけて形成されていった端緒も想起することができそうだ(ただし、本書は寺奴婢その他古代の卑賤階層の中世への影響には言及しないが…)。
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