スキャンダルの科学史 の商品レビュー
戦前戦後の日本科学史における数々の醜聞を紹介。 長岡半太郎の水銀還金事件を知りたくて,本書を読んだのだが,ほかにも野口英世の黄熱病「菌」発見,千里眼事件,森鷗外をめぐる脚気「菌」騒動,男女産み分け,ルイセンコ説,和田移植,古畑血液鑑定…などなど満載。野口は,発見した黄熱病菌からワ...
戦前戦後の日本科学史における数々の醜聞を紹介。 長岡半太郎の水銀還金事件を知りたくて,本書を読んだのだが,ほかにも野口英世の黄熱病「菌」発見,千里眼事件,森鷗外をめぐる脚気「菌」騒動,男女産み分け,ルイセンコ説,和田移植,古畑血液鑑定…などなど満載。野口は,発見した黄熱病菌からワクチンを作って接種していたようだが,それが効くものでなかったことを自らの死で証明してしまった感じでかわいそうだな。ウィルスというものが発見されてなかったから,何でも細菌による感染症に見えてしまったのだろう。脚気騒動にみられるように,真の原因が不明の場合,疫学的手法が非常に有効なのだが,そのことも昔は重視されてなかった。そういう歴史があって今がある。 1987年からの雑誌『科学朝日』の連載がもとになってるらしく,文章がやや古くて読みやすさはいまいち。執筆者も昔の人,と言う感じで妙な記述も。例えば千里眼事件の解説で,「透視は絶対不可能とは言い切れない,念写は多少の疑義を挟まずに居られない」とした当時の総括から,「現在でも透視および念写については、あまり進展しているようには思われない」(p.36)と書いてるあたり。科学なんだから,証拠のない怪しいものの実在を仮定することもないだろう。 理系の帝大教授が何でも銀に変換してしまうという老人に入門し,なかなか詐術を見破れなかった万有還銀事件などもあったが,この教授がそんなにトンデモだったという印象でもない。今と比べると大正時代に得られていた知識は乏しいから,現代のトンデモ教授のほうがよほどスキャンダルだと感じる。
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