比較政治思想史講義 の商品レビュー
著者が大学1年生向けにおこなった「比較政治思想史」という講義の内容をもとにした本です。 本書ではまず、トマス・アクィナスにおける道徳的国家観が紹介されます。トマスは、人間には衝動とともに理性がそなわっており、理性が衝動のなかに法則性を見いだすことで、神の秩序にもとづく国家を地上...
著者が大学1年生向けにおこなった「比較政治思想史」という講義の内容をもとにした本です。 本書ではまず、トマス・アクィナスにおける道徳的国家観が紹介されます。トマスは、人間には衝動とともに理性がそなわっており、理性が衝動のなかに法則性を見いだすことで、神の秩序にもとづく国家を地上に実現することができると主張しました。しかし、やがてこうした国家観は否定されることになります。ホッブズは、人間を自然権の主体として理解し、自己の生存のために相互に争うことになると考えました。こうした人間が社会契約にもとづいて国家を築くことになったという彼の議論が展開されます。 本書では、ホッブズにつづいてジャン=ジャック・ルソー、アダム・スミスの思想が紹介されます。ルソーは、人間の本性を自然な「憐憫」の情に見いだし、さらにスミスは利己心とともに他者への共感の能力が人間にはそなわっているという考えにもとづいて、彼の経済学と道徳哲学の体系を打ち立てました。 こうして西洋の政治思想の巨峰をたどったあと、近代日本に舞台を移して、福沢諭吉の思想が紹介されます。ただし著者は、資本主義が進展していく条件が整ってきたイギリスに生きたスミスと、土地所有にもとづく前近代的支配体制が残存していた明治期の日本に生きた福沢では、考察の対象とする社会のありかたが異なっていた点を指摘し、両者の議論のちがいがどのような理由にもとづいて生じたのかということを論じています。 入門書という位置づけの本であり、また、それぞれの思想家たちの生きた時代背景と彼らの人生についても触れられていて、比較的読みやすい文章で書かれているように思います。一方で、彼らの思想についての紹介が駆け足になってしまっているようにも感じてしまいました。
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