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蓮如 の商品レビュー

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2014/03/02

 伝承と記録. 本願寺の宗主 蓮如について研究書、啓発書が多いなか、文献史学、厳密な史料考証のうえに「実像」(2p)を示す. とりわけ真宗教団内で伝えられている<上人像>に、ときには意味合い与えていっそう明確にすることをめざし、他方で評価を変更する必要のある点については、<伝承の...

 伝承と記録. 本願寺の宗主 蓮如について研究書、啓発書が多いなか、文献史学、厳密な史料考証のうえに「実像」(2p)を示す. とりわけ真宗教団内で伝えられている<上人像>に、ときには意味合い与えていっそう明確にすることをめざし、他方で評価を変更する必要のある点については、<伝承の意味合い>を説明する試みと、受け止めたが. 垂直的系譜と空間的比翼 宗派にある近世以来の伝統を有する「宗学」(3p)があるとする. 教団内で深化する開祖との関係を「縦の視線」とし、歴史学者は時代のなかの人物像に関心を寄せる「横の視線」を指摘する. 人物史アプローチの正当性とそれにともなう<あやうさ=脆弱>を念頭におく.ということは、開祖以来の思想的枠組みの整理という垂直的系譜に造詣を示すかたわら、「人間蓮如・政治家蓮如・経営者蓮如」(197p)を、統合して理解する蓮如像を提示しようということになる. いま後者についていささかの紹介を試みるなら、戦国の世に教団化をすすめ、封建権力と一向一揆を通じて対峙し、真宗他派(仏光寺、興正寺、錦織寺、毫攝寺、三門徒派)から本願寺派をまとめあげた、政治力、組織力、経営者的資質の提示は、<空間的比翼>を内実化したと言うべきかもしれない. 多面、多元、多層の整理 本書は1997年に初版が刊行された.翌年に蓮如五〇〇回忌を控えていたと目される. 宗義・教団・記録.それぞれに著者ならでは踏み込めなかった、理解領域ということを実感する. 思想史の難解.開祖を頂点に、周囲・周辺をとりまく血縁・法縁の近親者にはじまり、累代の「善知識」とされるヒトが連なることで、開祖の信仰はいっそうの広がりと深化をとげたのであろう.他方で<異議><異安心>というべきか、開祖の信仰から乖離する論辞が流布する過程が示されている.蓮如の役割のひとつはその<秩序化>あったと、いえそうでもある. 他方で教団の枠組み.史料の発掘、公開利用に、おそらく教団の後押しがなければ、内部史料の公開・利用は困難であったと思える.とりわけ筆跡の発掘、対比、検証の豊富さは、戦後歴史研究の成果上にくわえ蓮如五〇〇回忌に向けての教団の理解と支援が重要なポイントとなっているように思え、それだけに著者の蓮如研究が重要な位置にある. 終盤、「蓮如の家とその一族」から、真宗他派との入り組みと位置関係に、予備理解がないと、図式として読み込むことが難しいところでもある.波乱にみちた蓮如像の、多面、多元、多層ならではの、おのずから然らしむる点であるのかも知れない. 1998年に発行された二刷目を購入した.購入後はそのままに積んであった. その後も蓮如研究は多くの著作が世に出ているのであろう.しかし教団の内外の視線でまとめた本書は、15年を経ても色あせない一書であるように思う.

Posted byブクログ