彷徨う日々 の商品レビュー
なんて奇妙な物語なんだろう。 自分は『ゼロヴィル』のあとにこれを読んだのだけれど、「サールの『マラーの死』」とだけ登場する映画がこれだけの物語を孕んでいたなんて、正に〈虚実〉のゆらぎを感じずにはいられない。D.W.グリフィス『国民の創生』がひとつのキーになっているところや、アドル...
なんて奇妙な物語なんだろう。 自分は『ゼロヴィル』のあとにこれを読んだのだけれど、「サールの『マラーの死』」とだけ登場する映画がこれだけの物語を孕んでいたなんて、正に〈虚実〉のゆらぎを感じずにはいられない。D.W.グリフィス『国民の創生』がひとつのキーになっているところや、アドルフ・サールの「狂気じみた出し抜けの併置法」による編集術など、『ゼロヴィル』のヴィカーに共通するところも多くみられる。そういう意味では『ゼロヴィル』は“サール・サーガ”の一変種だと捉えることもできる。 双子、吃音、親に先立って死ぬ子どもたち。奇妙な一致が具体的な意味を持たぬまま語られていく術は正に「狂気じみた出し抜けの併置法」によって編まれている。 ゼロヴィルに比べると想像を超えすぎて頭のなかで映像化できないシーンもたくさんあったが、それこそが文学の歓びなのかもしれない。ミシェルとローレンが砂嵐の中愛し合うシーンはなんとなくカラックスの「ポーラX」を思い出したりした。
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文章が濃くて楽しい。大筋は、傷ついた女と記憶喪失の男とねじれを抱えた男の奇妙な三角関係、という印象。お昼のドラマ並にメロウなのが気にならないくらい文章が美しかった。そして、切ない。 ロサンゼルスーパリーヴェニス、めくるめく幻想シーンに次ぐ幻想シーンに、次は何を見せてくれるんだろ...
文章が濃くて楽しい。大筋は、傷ついた女と記憶喪失の男とねじれを抱えた男の奇妙な三角関係、という印象。お昼のドラマ並にメロウなのが気にならないくらい文章が美しかった。そして、切ない。 ロサンゼルスーパリーヴェニス、めくるめく幻想シーンに次ぐ幻想シーンに、次は何を見せてくれるんだろうとワクワクする。くらくら、ドキドキもする。低いのか高いのか分からない温度、モノトーンを思わせるけど光や音を感じたり溢れた言葉で満たされていくような世界に酔う。シラフに戻ると、ベルベル族の奴隷みたいにあなたに仕えたい。には、え?ってなったけど、そこかしこに驚きがあるし、おそらく作者の感性なんだろうなと思う部分に引き込まれるというか。陶然たる余韻。
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