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視線の物語・写真の哲学 の商品レビュー

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2019/04/01

写真の登場によってわれわれの視覚経験にどのような変容がもたらされたのかを哲学的に考察している本です。 著者はまず、絵画を「見る」経験と写真を「見る」経験がはっきりと異なっていることを明らかにしようとしています。絵画は、額縁にくっきりと収められた一つの「全体」としての世界の描写で...

写真の登場によってわれわれの視覚経験にどのような変容がもたらされたのかを哲学的に考察している本です。 著者はまず、絵画を「見る」経験と写真を「見る」経験がはっきりと異なっていることを明らかにしようとしています。絵画は、額縁にくっきりと収められた一つの「全体」としての世界の描写であり、われわれはそこに描かれた世界を「観照」することになります。これに対して写真を撮るという行為は、世界から一瞬の「断片」を切り取ることであり、われわれは写真を通じてその外へと広がっている世界を「眺望」することになると著者は論じています。 そのうえで著者は、写真を通じて眺望される世界は「かつてあった」物語として理解されることになると主張します。われわれがシャッターを押して時間の断片を切り取り、保存するとき、流れていた時間は決定的に「もはや終わってしまった」ものとなります。さらに著者は、カメラの前にひとが身をさらすということは、みずからの「現在」を「過去」として固定化する視線に身をゆだねるということを意味しているといいます。それは、自己についてのイメージを無数の人びとに明けわたすことにほかなりません。このような経験は、われわれのアイデンティティのあり方にも変容をもたらさずにはおかないと著者は論じます。 さらに、肖像写真、ポルノ写真、報道写真などを題材に、ファインダー越しの「まなざし」についての考察が展開されています。

Posted byブクログ