あした、旅人の木の下で の商品レビュー
旅に出れない今読むのにぴったりな本。 シンガポールが舞台。 1話毎に語られる人が変わって、視点が変わるのが新鮮。 夫々の登場人物や個性が、こんな人いそう…と想像出来る。 聖ニには誰もが会ってみたいと思わせる魅力がある。
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パズルのピースが微妙に食い違って、少しずつずれていく。少しのずれでも、距離が遠のけば遠のくほど、そのずれが大きくなっていってしまう。 十二夜をみているようなそんな感じ。でも、十二夜のように、魔法がとけることはない。魔法がとける前に、時はひとを分かつものだから。 でも、いびつなピー...
パズルのピースが微妙に食い違って、少しずつずれていく。少しのずれでも、距離が遠のけば遠のくほど、そのずれが大きくなっていってしまう。 十二夜をみているようなそんな感じ。でも、十二夜のように、魔法がとけることはない。魔法がとける前に、時はひとを分かつものだから。 でも、いびつなピースたちがばらばらになることはない。そこには細いが、つながりというもので確かに結び付けあっているから。 異国の地、シンガポールで、惹かれあうひとびと、ひとびとを結びつけるのは、どこからともなくやってきたひとりの青年。女性ようで男性的などこの国を故郷と呼ばず、どこの国も彼の故郷となる。 トリックスターと呼ぶには、彼はあまりに透明で美しすぎる。彼は、何ほどのこともしていない。彼はただ、そこにいて、すれ違うひとびとの間で息をしていただけなのだ。 壮年を迎え、終わりのない夏のような感情をまぶしいと感じ始めたひとびとが、ひとつのパズルとして景色を映し出すには、あまりにシンガポールは気だるく、異国の地であった。 重なってしまえば、何かがきっと壊れてしまう。けれど、求めずにはいられない。彷徨いながら歩いている道の途中で、ふっとそんな自分を考えてしまう。 ただ言われるがままに歩いてきたひと、蝶になる前に放り出されたひと。魔法にかけられたひと。待つことでしかいられないひと。言い聞かせることで忘れようとするひと。 このひとびとがこの後、どれほど重なり合うのかわからない。けれど、一枚の写真に写った、たったひとりの人間のために、彼らは再び、気だるい夏を思い起こすのだろう。 それは、取り返しのつかないくらい、埋めることの出来ない、長い年月が横たわったとしても。いつか何かが呼び合うような、そんな気がする。 忘れられないひとになるのは、まだ少し先のこと。
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