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甲乙丙丁(上) の商品レビュー

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2017/11/16

なんとなく、しみじみと面白い本です。 しかし、背景が分かりません。「六全協」がまず分からない。 いま調べると、 六全協【ろくぜんきょう】〔固有名詞〕 1955年7月に開かれた日本共産党の第六回全国協議会のこと。ここで、共産党がそれまでの山村工作隊(さんそんこうさくたい)など武...

なんとなく、しみじみと面白い本です。 しかし、背景が分かりません。「六全協」がまず分からない。 いま調べると、 六全協【ろくぜんきょう】〔固有名詞〕 1955年7月に開かれた日本共産党の第六回全国協議会のこと。ここで、共産党がそれまでの山村工作隊(さんそんこうさくたい)など武装闘争方針を穏健な議会主義に転換した。それまで共産党の指導のもと、共産党の方針を信奉してきた学生活動家たちは、大打撃を受け、離党したり、反日共系の組織を結成するなど、分裂していった。倉橋由美子の『パルタイ』、柴田翔の『されど われらが日々――』などの小説は、この当時の学生たちの動きやショックを題材にしている。 「全共闘運動の基礎知識」 全共闘運動発生の契機になった有名な出来事らしい。 こういうことすら知らないのだから、あとは推して知るべし。 この方面に詳しい人なら、どの登場人物が宮本顕治に相当するのかすぐ分かるのだろうけど、皆目見当がつきません。モデル探しに気をとられない分、作品そのものを読むことができたのかもしれませんが。 初老の男の鬱積をダラダラつなげたような作品です。不思議とそこが面白い。山口瞳のエッセイを読んでいるような気がしないでもない。                                               根本的なところで、これはきわめて倫理的な作品だと思います。「倫理的」が大げさなら、「人をあんまり馬鹿にするんじゃないよ、オマエラ」と言っている作品です。 そう言っていながらも、相手も同じ組織の一員であり、古くから知っている仲間であり、過去のさまざまな不出来な出来事の責任の一端を担っているという自覚があるため、語り口は自然、忸怩たるものにならざるをえません。そしてここでの組織は、人類の正義は我にありということを標榜しているらしいだけに、それを楯にとった理不尽さと厚かましさが底なしでやりきれないという……悪どさの度合いに違いはあっても、世の中にはありがちな事柄ではあります。組織で働く人間には、身につまされます。 それを断罪できないでいる登場人物の曖昧さや優柔不断さは真実味があって、鋭敏で厳しい(しかし組織の中では実効性を発揮できない)倫理性には、いちいち頷けるところがあります。 中年のサラリーマンには相性の良い、味わい深い物語です。 ほんとうは虐殺とか弾圧とか、冗談ごとではすまない背景を背負っての物語なんで、こんなふうに暢気に読んで良いものかどうか、疑問がないわけではないですが。

Posted byブクログ