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甲乙丙丁(下) の商品レビュー

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2017/11/16

革命とか反革命とか闘争か抵抗とか、ぶっそうな用語が飛び交いつつも、物語は前巻と同様、地味に地味に進みます。 上巻の後半部で、主人公が突然、「津田」という出版関係の男から、作家の「田村」に変わってびっくりしましたが、これはおそらくグチグチとした展開に作者がたまりかねて、作者自身がモ...

革命とか反革命とか闘争か抵抗とか、ぶっそうな用語が飛び交いつつも、物語は前巻と同様、地味に地味に進みます。 上巻の後半部で、主人公が突然、「津田」という出版関係の男から、作家の「田村」に変わってびっくりしましたが、これはおそらくグチグチとした展開に作者がたまりかねて、作者自身がモデルと思われる田村を主人公にして、共産党に対する恨み辛みを一気にぶちまけようとしてるのかと期待しましたが、そういうことは起こらず、おなじ調子の韜晦が続きます。3.15とか4.8とか、背景を知らないままなので、語られてる内容は痛切なんでしょうけど、いまいちピンとこない。 それでも、このグチグチは面白い。ちくま文学全集の後書に、別れた相手への繰り言みたいだと書いてありましたが、ほんとうにそんなところがありますね。不条理な出来事がたくさんあって、カフカの小説みたいな雰囲気もあります。 じめじめした退屈な話に聞こえるかも知れませんが、全部で1000ページ、なぜか面白い。 たとえば、こんなふうな文章。可笑しいけど、しみじみとします。 「この晩酌というのがよくない。人にもよりけりだろう。ただおれの場合、晩酌をするようになつておれは堕落したな。これは駄目だ。しかし、うまいことは全くうまい……」  若いとき、田村は酒を飲んだが晩酌ということをしなかつた。しようと思ったことさえなかつた。アルコホルは飲むべからざるものと頭で考えていた。そうしていて時々酒を飲んだ。時には大酒をのみ、深酒をして、さく子と口論をした挙句ふとんをかぶつて寝てしまい、しかし翌る日になるとどうしても目がさめてしまい、仕方なく起きて心から後悔した。ほとんどげつそりして、心が非常に謙遜になつて彼は本を読んだ。書いてある大分むずかしいことが、清水の沁みてくるように彼によくわかった。(p435) この時読んだのは、マルクスとかヘーゲルとかではなく(二日酔いではたぶん読めないでしょう)、宗教的・倫理的傾向の書物だったろうと思います。 そうだよなあ、そんなことってあるよなあ。 あの状態が、いつどこでかわつてしまつたんだろう…… (p435) ほんとにそうだよなあ。

Posted byブクログ