黄色い牙 の商品レビュー
志茂田景樹氏の直木賞受賞作である。 シカリ(統領)の若き息子を中心に、ネジけたライバルの存在、女衆との愛憎、鉱山夫など荒くれ男たちとの立ち回りといった大衆小説の常道を押さえつつ、自然と対峙するマタギの流儀や熊狩りの緊迫感などを交えて一気に読ませる。 しかし単なる冒険活劇や勧善...
志茂田景樹氏の直木賞受賞作である。 シカリ(統領)の若き息子を中心に、ネジけたライバルの存在、女衆との愛憎、鉱山夫など荒くれ男たちとの立ち回りといった大衆小説の常道を押さえつつ、自然と対峙するマタギの流儀や熊狩りの緊迫感などを交えて一気に読ませる。 しかし単なる冒険活劇や勧善懲悪といったものではなく、伐採や鉱山開発、ハンターや登山者の出現、鉄道やラジオの普及を通して押し寄せる近代化の波など、マタギの生活や習俗を衰退へとおとしめつつある逆風が物語に深い影を落とす。戦争へと向かっていく時勢でもある。その中で時代にあらがい、一途に信念を通そうとするマタギの姿がテーマなのである。 中でも、衰退の原因は環境ばかりではなく、自らの中にあったのだとする指摘には胸打たれるものがある。いわく、 鉄砲を持つようになって、マタギは楽をしすぎて獲物を獲ってきたのではないか。 マタギは獲物を獲りすぎ、狩りすぎていた。獲物を減らしたのは、伐採や試掘や、無軌道なハンターや密猟者ではなく、行のきびしさを忘れ、形だけの掟や禁忌に服して、獲りまくり、安逸な豊かさのなかに身を置くことに慣れたマタギ自身ではなかったろうか。… 現代の環境破壊…いや日本の凋落ぶりさえも見て取れるのではないか? とても読み応えのある佳作であった。
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