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ソレルのドレフュス事件 の商品レビュー

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2018/05/07

◆ムッソリーニが「精神上の父」と称揚し、他方、ムッソリーニを「政治的天才」と賞賛した思想家の認識を辿ることは、今ここにある危機に対する「洞窟のカナリア」の内実を理解することが可能になるかもしれない◆ 1996年刊。 著者は八千代国際大学教授(政治学・社会学)。  ムッソリーニ...

◆ムッソリーニが「精神上の父」と称揚し、他方、ムッソリーニを「政治的天才」と賞賛した思想家の認識を辿ることは、今ここにある危機に対する「洞窟のカナリア」の内実を理解することが可能になるかもしれない◆ 1996年刊。 著者は八千代国際大学教授(政治学・社会学)。  ムッソリーニが「精神上の父」と称揚し、他方、ムッソリーニを「政治的天才」と賞賛した思想家ソレル。  そのソレルが、20世紀にならんとする頃に遭遇したドレフュス事件(仏軍ユダヤ人将校による秘密漏洩冤罪事件と、冤罪発覚前に生じた、ユダヤ人他への政治家・ジャーナリズムによる根拠のない狂信的非難)と、これを踏まえたソレルの思想形成の模様を概括する。  正直面白くない書である。  それは、まず、著者が懸命に擁護しようと試みるソレルの思想につき、それに内包する分裂症的?乖離に疑問符がつくからだ。つまり、実証主義を嫌悪・批判し、思索の塊に過ぎない哲学的・宗教的に価値を置きながら、他方で、行動主義的社会主義労働者(現実に実在する問題の解消を行動により実現しようとする人々。これは非常に狭いものの、事実を根拠に主張し行動する人々である)を称揚するという、何とも理解しがたい考えについていけないからだ。  さらには、階級を措定しつつ、夫々の階級で、夫々の役割を果たすことを強調する。これが動議を生む源というような主張を展開するということになると、著者の(時代的制約を肯定したとしても)発想の貧困さ、視線の硬直さが垣間見れると思わずに入られなかった。  その上、ソレルの批判が、ドレフュス事件後に成立した政府の政策、具体的には宗教の政治参与の否定(許可なき聖職者の教職就任の禁止や政治からのカトリックの追放)であって、本書を読む限り、さほど問題とは思えない事象に向けられているに過ぎない。ここも本書を読む気を失せさせるものとなっていた点である。  もっとも、後者の点は、ソレルが批判した現象につき、著者が「『政教分離』」といった行儀の良いものではなく」「教会の信仰を…叩きつぶそうとするほどひどい」などと、具体的な政策内容・法令・法令運用のありよう、具体的侵害ケースを全然挙げないままに概括した、という問題を孕んでいるためではある。要は著者の叙述内容の説得力の欠如の可能性も残る。  正直、ソレル、そして著者にかかる印象を持ってしまったため、前半のドレフュス事件紹介までで読むのを止めようかと思うほどであった。  ところが、とある方が、「今ここにあるかもしれない民主主義の危機と同様の状況を踏まえている思想家であり、かつ、ムッソリーニが利用(悪用)した思想・人物である」という主旨のレビューをしていたことから、気を取り直し読み続けることにしたのだが…。  なるほど、ソレルの提示した民主制の問題点は理解できる。正しいとも言えそうだ。  しかし、その解決策に道義・道徳・徳義を持ち出すあたりは極めて胡散臭い。  仮に道義を加味するとしても、システムの運用ルールの策定と罰則、それらの不断の改善という方法論が全く見えない主張が果たして意味あるものか。効果的と言えるかは相当の疑問符をつけざるを得なかった。  同じことが、ソレルにおける実証性に対する懐疑的視線にも言えそう。実証性を欠き、論だけで具体的政策に落とし込む愚・危険性は言わずもがな。  正直、本書の読後感とすれば、ソレルと共通ないし類似の論法を使う人は、ムッソリーニの如き存在を正当化し、市井の人々にとっては危険だよという「洞窟のカナリア」に相当する。そんな認識の一助になる。  これが本書の読破の意味に感じられたところ。  ただし、欧州の反ユダヤ気質・行動が蔓延していたという観点でみると、フランス発生のドレフュス事件については、本書は認識理解の取っ掛かりにはなるかもしれない。

Posted byブクログ