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森をゆく旅 の商品レビュー

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2018/06/30

 宇江さんの文章の、落着いたリズムが僕は好きだ。描写される自然の風景も無理なく心に入り込んでくる。  本書は、日本各地の木や森を巡る人の営みを取材した記録だ。1980年代に取材されたもので、取材対象は多岐にわたる。山村での木にまつわる仕事なので、インタビュー対象は高齢の方ばかりで...

 宇江さんの文章の、落着いたリズムが僕は好きだ。描写される自然の風景も無理なく心に入り込んでくる。  本書は、日本各地の木や森を巡る人の営みを取材した記録だ。1980年代に取材されたもので、取材対象は多岐にわたる。山村での木にまつわる仕事なので、インタビュー対象は高齢の方ばかりで、歴史が閉じようとしているものが多い。本書が書かれた年代と照合して気づくのは、まさに僕らの父親世代にインタビューしており、跡を継がなかったのは僕らの世代だ。二十歳のころを振り返り、本書に書かれている木地や松煙だったり、杓子づくりを生業にする覚悟ができたのかと問われると、それはできなかっただろう。1次産業への就労に憧れはあったが、自分の人生における現実的な選択は会社勤めだった。  社会の在り方の大きな流れは、昔ながらの職業や民芸、工芸を自然と淘汰していき、それを必然として受け入れるには余りに惜しいが、できるのは本書のような記録に残すことだけだ。今は昔になり、昔は記憶と記録にしか残らない。そして記憶は人とともに亡くなる。

Posted byブクログ