「大菩薩峠」を読む の商品レビュー
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現代思想に造詣の深い著者が、中里介山の『大菩薩峠』を独自の視点から解釈する試みです。 『大菩薩峠』の物語の舞台になる「峠」「みなと」「旅」といったキーワードに、著者は交易空間としての意義を見いだし、主人公の机竜之介をはじめとする登場人物たちが身体に欠損の刻印を受けていることや、...
現代思想に造詣の深い著者が、中里介山の『大菩薩峠』を独自の視点から解釈する試みです。 『大菩薩峠』の物語の舞台になる「峠」「みなと」「旅」といったキーワードに、著者は交易空間としての意義を見いだし、主人公の机竜之介をはじめとする登場人物たちが身体に欠損の刻印を受けていることや、彼らの欲望が「他社の欲望を欲望する」というジラール的な機制にもとづいて展開していくことが、交易空間における流通作用となっていると主張されています。 さらに著者は、駒井甚三郎やお銀の構想するユートピアが挫折していくところに、現代思想においてくり返し問題とされてきた、近代の蹉跌と同様の意義を読み取ろうとします。そのうえで、宇治山田の米友、武州沢井の与八、清澄の弁信といった登場人物たちの生き方に、浄土真宗の妙好人の姿をかさねあわせようとしています。 著者の思想にある程度通じている読者でないと、本書の解釈にどのような意義があるのか理解しがたいと感じるかもしれません。また、解釈の下敷きとなっている著者自身の問題意識ばかりが目立っていて、なぜ『大菩薩峠』でなければならなかったのかという疑問に対する答えは十分に示されていないようにも感じられました。
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