ゲノムを読む の商品レビュー
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1996年刊行。高い個体識別能を持ち、遺伝性疾患に関する情報の宝庫たるゲノム。ゲノム利用や情報集積に関する、著者らの余りに牧歌的な性善説への疑義は一先ず置く。しかし、遺伝性疾患のみならず、多様性を持つがんの撲滅方法、動植物の品種改良や厳しい環境適応を可能にする食糧開発、高濃度塩や極少水等過酷な環境で生息する植物など、ゲノム、さらにはゲノムから導かれる各種機能、DNAからタンパク質合成のための情報を担っている遺伝子の役割を解明する研究自体は、社会的有用性と生物学・生化学的な学問の追求意欲をそそるテーマ。 本書は多少古いが、このゲノム、あるいは遺伝子に関し、各種疾患、遺伝子あるいはゲノムに関する生物学上の問題、薬の開発・遺伝的疾患の治療法確立・細胞研究全体への有益的影響、ゲノムの研究手法とその進展、各国の取組の違いや特徴、特許や不利益情報集積に関する社会的意味など、当時の最新情報を、割に判りやすく解説してくれている。著者松原は大阪大学細胞生体工学センター長・同教授。著者中村は生命誌研究館副館長、早稲田大学・東京大学客員教授。 PS.当然の知見だが、人種や皮膚の色等の差は、ゲノムの多型マーカーにおいて僅か3~10%で、同人種・同民族内の個人間の多型の差の方が大。言語や目に見えるものが差を強調するだけ。また、生物種や民族の分岐時点の確定や、遺伝的共通項から例えば日本人のルーツを解読できるのはゲノムの多様性ではなく、その有用集合体の遺伝子レベルの共通性に由来。音楽・美術等俗に天賦の才能の差とされるのは、余りに多様な遺伝子(本書は数万と見積もる)に関わり、それに環境要因が付与。ゆえに確定不可のよう。
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