イギリス流「社交」の楽しみ の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
宴会、パーティーの歴史、その性格の変遷などを紹介する。 イギリスを中心に、古代から近代にかけて宴会やパーティーの性格がどのように変わってきたか、そして明治時代に輸入されたパーティー文化を、日本人がどのように理解してきたかなど、歴史的経緯をふり返る。そこから現代日本でも役に立つことを探ろうというのがこの本の狙いだ。 もともと宴会やパーティーは、同じ土地、同じ共同体のメンバーで行われていた。飲食ともに楽しみ、繋がりを強めるというのが目的だった。それが18世紀、ロンドンの都市化が進むと、新しく人脈を作ることが中心になる。つまり、重点が「飲食」から「社交=会話」に移っていく。 ちなみに、日本のパーティーはいまだに飲食に重点を置かれていると指摘する。でも、これは日本というより、アジア全体の特徴といえるのではないだろうか。中国や台湾でそういう場に呼ばれたこともある。飲食を通して親睦を深めるというのは、ぼくたち日本人には理解しやすい。 「社交力=演技力」であるといい、20世紀半ばのある会員制クラブでのエピソードが引用されている。第二次世界大戦末期にイタリア戦線で活躍したハロルド・アレクサンダー元帥が、休暇でロンドンに戻ってクラブに顔を出したときのことだ。 コーヒールームへ行くと、年輩の会員が元帥を見つけていった。「やあ、アレクス、久し振りじゃないか。どうしてるんだね、近頃は。」元帥は答えていわく、「まだ軍にいるよ。」 (p.196) 当時、元帥のことは毎日のようにニュースで報道されていた。そこから元帥の謙虚さや、老会員が世の中に疎いなどとも解釈できる。しかし、どちらか一方、もしくはふたりともが、わざととぼけてみせたのかもしれないとも考えられる。それはイギリス的ユーモアの典型だとしているのが興味深い。 本を締めくくるにあたって筆者は、ゆたかな会話をするためには「演技力」が重要だとアドバイスをしている。このアドバイスは画期的だった。どんなに見ず知らずの人が多くても、演技を楽しむ感覚でいればすこしは心地よくすごせそうな気もしてくる。ただし、それは参加者全員に必要なことではあるのだけども。
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