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言語と認識のダイナミズム の商品レビュー

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2012/04/25

「ウィトゲンシュタインからクワインへ」というサブ・タイトルが示す通り、ウィトゲンシュタインの言語観・知識観の問題点を克服し、クワインのホーリズムに基づく言語観・知識観へと進むべきだという著者の思想が展開されている。説明がたいへんていねいで、予備知識のない初心者にも読みやすい。 ...

「ウィトゲンシュタインからクワインへ」というサブ・タイトルが示す通り、ウィトゲンシュタインの言語観・知識観の問題点を克服し、クワインのホーリズムに基づく言語観・知識観へと進むべきだという著者の思想が展開されている。説明がたいへんていねいで、予備知識のない初心者にも読みやすい。 著者はまず、後期ウィトゲンシュタインによる「規準」と「徴候」の区別にひそむ問題点を指摘する。「規準」とは言語規則・文法の事柄であり、経験的に確立される事実の関係である「徴候」とは区別されなければならないとウィトゲンシュタインはいう。そしてベイカーとハッカーによれば、ウィトゲンシュタインは規準によって他人の痛みを「確実に知る」ことができると考えていた。だが著者は、ウィトゲンシュタインが規準が変化する可能性について考察していたことを指摘し、そこから次のような考察を引き出してくる。すなわち、他人が痛みのふるまいをしているときに「彼は痛いのだ」と確信することは、彼に対してうまく対応するための「技術」なのであって、この技術を身につけるために、他人の痛みを「確実に知る」ことは必要条件とならない。こうして著者は、文法的規則と事実的命題との区別を廃棄することで、ウィトゲンシュタインの規準と徴候の区別を取り払おうと試みる。 じつはこうした試みは、最晩年のウィトゲンシュタイン自身によって推し進められていた。それが『確実性の問題』における「世界像命題」である。著者はこうしたウィトゲンシュタインの試みに一定の評価を与えながらも、ウィトゲンシュタインが「地球は私が生まれるよりずっと前から存在していた」などの命題を単独で取り上げて、それが世界像命題だと判定できるように考えていたことを批判する。その上で著者は、クワインのホーリズムの議論を踏まえながら、どのような命題も改訂可能性を免れていないと主張する。 さらに著者は、経験と私たちの信念の体系が接する「縁」に位置する「観察文」の意味は「刺激‐意味」によって一義的に定まるというクワインの見解にも批判を加え、観察文が理論負荷性をもつことを積極的に承認する。この点で著者の描き出す言語観・知識観は、クワイン以上に強くホーリスティックな性格を示すものになっているということができるだろう。

Posted byブクログ