森と文明の物語 の商品レビュー
花粉調査からその時代・地域の植生を推測し、その植生に基づいてそれぞれの文明がどのような状況であったか解説する自然愛護主義者の著作。
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1995年刊行。著者は国際日本文化研究センター教授。花粉の考古学的分析を専門とする著者は1980年環境考古学を提唱。本書は世界各地、すなわち①古代エジプトやオリエント、②古代の地中海・ギリシアのミケーネ・ミノア両文明、トロイ戦争やペロポネソス戦争、ローマ帝国の衰亡、③中世の独英、④大航海時代以降の中米諸島、イースター島、⑤日本の縄文期と近世期について、森林伐採・破壊によって、歴史的にいかなる事象を招来したかを解説。総じて、破壊的な森林伐採(耕地拡大だけでなく燃料用が重要か)に伴う森林争奪戦の様相。 西洋・中近東古代史における戦争がリーダーの個人的側面からしか語られず理解しにくかったが、燃料としての森林争奪戦の面は、大いに啓かされた感。また、ギリシア・ローマの豊かさの象徴の如きオリーブ木は、実は穀物の生息できない荒地用であった事実も、オリーブの交易商品として意義以上の気づきを与えてくれた点であろうか。さらに、森林破壊→土壌劣化まではともかく、ここから流出土による河川・沿岸部の沼地形成、結果としてのマラリア媒介蚊の繁殖と疫病蔓延はこれまで見てこなかった点かも。、 翻って、日本の森林がある程度保全された点につき、①家畜(特に山羊)を利用しない社会、②山地の森林の産物の利用と保全(近世期「木一本首一つ、枝一本腕一本」という厳格な管理)、③森林で生きる動物の善性擬人化という日本人の心性(西欧中世の動物裁判/「純潔のマリア」内で描述/とは異質)、④縄文海進における暖流/対馬海流の日本海流入の植生への影響が興味を引く点か。このようにジャレド・ダイヤモンドだけではなく、日本人研究者にもこんな明快な書を著す人のいることは素直に嬉しいところ。
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メソポタミアにはじまる都市文明は森林資源の過度な利用による人為的な環境破壊により発展そして衰退した。森と人・文明との関わりを花粉分析や考古学の成果をもとに解説。
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メソポタミアに始まるいくつもの文明が、森林を収奪することによって成り立ち、森林資源が失われる度に衰退を繰り返してきたことを、花粉分析の結果から明らかにしている。 都市の形成による支配階級の誕生、金属の精錬や砂糖の生産のための薪の需要、一神教の普及による人間の自然支配の概念などが...
メソポタミアに始まるいくつもの文明が、森林を収奪することによって成り立ち、森林資源が失われる度に衰退を繰り返してきたことを、花粉分析の結果から明らかにしている。 都市の形成による支配階級の誕生、金属の精錬や砂糖の生産のための薪の需要、一神教の普及による人間の自然支配の概念などが森林破壊と森林資源をめぐる争いを招き、資源の枯渇や、土壌流出と湿地拡大による疫病の蔓延などによって衰退していった。 一方で、温暖湿潤な気候に恵まれた日本では、森の恵みを享受し、自然と共存した生活を続けることができていた。西洋的な文明だけが発展ではないにも関わらず、世界全体が西洋化しつつある現代に疑問を投げかける。 今日直面している地球環境問題も、自然保護といった断片的な問題なのではなく、文明のあり方そのものが問われていることが理解でき、とても示唆に富んだ内容の書である。
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