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岩田栄吉画集 の商品レビュー

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2023/08/13

静物画やトロンプ・ルイユ(だまし絵)を得意とした画家・岩田榮吉(1929~1982)の画集。スケッチなどを含めた絵画、約200点が収録されている。 岩田榮吉本人の語録や、彼に親しい友人・知人からの寄稿もあり、画家の人物像をうかがい知ることもできる。寄稿者は加賀乙彦、加藤貞雄、中...

静物画やトロンプ・ルイユ(だまし絵)を得意とした画家・岩田榮吉(1929~1982)の画集。スケッチなどを含めた絵画、約200点が収録されている。 岩田榮吉本人の語録や、彼に親しい友人・知人からの寄稿もあり、画家の人物像をうかがい知ることもできる。寄稿者は加賀乙彦、加藤貞雄、中根寛、槇文彦、渡邊守章、アンリ・カディウ、フランソワ・バブレー。 横浜本牧絵画館にて、トロンプ・ルイユ展を観覧した際に購入した。それまで、トロンプ・ルイユを意識して見たことはなかったし、岩田榮吉という画家も知らなかった。ひと目見た勢いで手を出したのだが、後悔はない。 静謐という言葉が似合う絵画だと思った。余計なものが描かれていない、自分自身とだけ向き合った人間が創り出した奥行きの世界。リアルに描けば描くほどに、より深まっていく虚構の陰影。空間から徹底的に疎外された人間の、焼きついたまなざし。完全に停止した時間からこそ溢れ出る、「始まる」という予感。 「静物画」とは、こういう絵のことをいうのだ。 掲載作品には、画家本人がフランス蚤の市であつめた古物やオブジェなどの題材が、何度も繰り返し現れる。香炉、地球儀、トランプ、人形、地図、砂時計、鍵、棚…。しかしそれらは皆、ただ一様に描かれているというわけでは無い。《創作》や《ヴィラ・スーラの緑の部屋》とは違って、《時の小箱》の地図だけ破れているな…という些細な差異に立ち止まることが楽しい。

Posted byブクログ