人間が幸福であること の商品レビュー
『人生についての281の断章』と副題。 辻邦生氏の作品の中から『思索的葛藤のあとを示す章句を抜粋し、断章風のアンソロジーを』海竜社編集部が選び、辻邦生氏も加筆したもの。 という、辻邦生氏の作品を知り、味わうには便利な本。 辻邦生氏も書いてらっしゃるように『断章から、すすんで作品そ...
『人生についての281の断章』と副題。 辻邦生氏の作品の中から『思索的葛藤のあとを示す章句を抜粋し、断章風のアンソロジーを』海竜社編集部が選び、辻邦生氏も加筆したもの。 という、辻邦生氏の作品を知り、味わうには便利な本。 辻邦生氏も書いてらっしゃるように『断章から、すすんで作品そのものに向かって』いけるだろう。 散りゆく桜のなかで―瞬間瞬間を楽しみきる 山奥の小さな青い湖―深く深く感じる 麦の熟れるように―魂を成熟させる 野の果てに浮かぶ雲―自分でありつづける こう、目次を並べてみるとやっぱり身近に置きたい本。 私の偏見だったのだが、辻邦生氏は生活感のない芸術至上主義の文学者であるかのように思っていた。 この断章を読んでますます考えを改めた。 ***** 殆ど全部引用したいくらいいい言葉ばかりなのだが、そうもいかないのでひとつだけ。 少々長いのだが、ぜひ書き写しておきたいので。 『男は女性によって完全な男になるように、女性も男によってはじめて完全な女性になる。男女ともそれぞれに完成への媒体は反対の性なかにしかないのである。』 『もし女性が「母」の原理を深く生きることなく、単に男のロジックに従った仮装男性であれば、男が人間として生きる根源方向を女性のなかに見出すことはできない。もし男が相変わらず破滅に向かう男社会の原理を越えて、女性のなかにいきいきとした生の力を見ることができないとしたら、女性の完成にも手を貸すことができない。新しい結婚の条件はただこのなかにしか見出せないだろう。』 『現代は迷いと彷徨の時代である。私たちは喘ぎ求めている時代に生きている。こういう時代に、男より深く生の方向を示している女性の生き方に、失われた方向を見出したいと思うのは、砂漠のなかで泉に向かって歩く人間たちと等しくないだろうか。』(『遥かなる旅への追想』「歴史の奔流から」) 現代の女性への応援歌ではないか。解決への糸口と思う。
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