プリズンの満月 の商品レビュー
巣鴨プリズンなるものの真実
本書は、先の敗戦後軍事裁判で死刑や終身刑など重罰判決を受けた戦犯を収容し、絞首による処刑も行われた巣鴨プリズンに勤務していた刑務官を主人公とする長編小説である。冒頭と巻末において刑務官を退官した後の主人公の私生活が描かれ、それがいかにも小説然とした筆致であるため、中盤で回想的に坦...
本書は、先の敗戦後軍事裁判で死刑や終身刑など重罰判決を受けた戦犯を収容し、絞首による処刑も行われた巣鴨プリズンに勤務していた刑務官を主人公とする長編小説である。冒頭と巻末において刑務官を退官した後の主人公の私生活が描かれ、それがいかにも小説然とした筆致であるため、中盤で回想的に坦々と描出されているプリズンにおける出来事が、その具体性や迫真性故に、どこまでが事実でどこまでが虚構なのか釈然としないまま、ある種の違和感をもって通読することとなったが、筆者あとがきによれば、主人公にモデルがいないことのほかはすべて事実であるという。このことを知らされて初めて、通読中の違和感の正体が、これまでの自分自身の認識との齟齬・相違にあることに気付かされた。あとがきは続けて「時間の経過によって物事はよく見えてくる」と書き、「巣鴨プリズンが刑務所としての姿を急速に失っていったことに、戦犯というものの問題を解く鍵があると思っている。」と記している。この文意や裏側に隠れている筆者自身の問題意識や主張、本意とするところは本文中からも判然としないが、戦犯や東京裁判などに対する多様な考え方や思いがある中で、著者が自ら変則的な小説という本書を通じて、巣鴨プリズンなるものの真実から解き明かすことを企図したものとするならば、あとは本書を読んだ読者一人一人がさらに学びを深め考察すべしということであろう。
fugyogyo
戦後、巣鴨プリズンで勤務し東京拘置所、小菅刑務所を経て定年退官した元刑務官・鶴岡。彼が見たプリズンの姿。戦犯とは、東京裁判とは、戦争とは・・・静かに問いかける長編小説。 主人公の鶴岡は架空の人物であり、本作は全編フィクションの形で進行していくが、そこで描かれる内容は実在の刑務官の...
戦後、巣鴨プリズンで勤務し東京拘置所、小菅刑務所を経て定年退官した元刑務官・鶴岡。彼が見たプリズンの姿。戦犯とは、東京裁判とは、戦争とは・・・静かに問いかける長編小説。 主人公の鶴岡は架空の人物であり、本作は全編フィクションの形で進行していくが、そこで描かれる内容は実在の刑務官の手による詳細な年表と関係者への聞き取りによる事実に基づいている。 現在サンシャイン60がそびえ立っている敷地にはかつて「巣鴨プリズン」と呼ばれた戦犯収容施設があったこと、その敷地内の刑場跡はささやかな公園となり、今も石碑が遺されていること、石碑の脇にはかつて5基の絞首台があったこと、極東国際軍事裁判の後、7名のA級戦犯が早々と絞首刑に処せられれたこと・・・そのくらいの知識しかなかった。 何百名もの残された戦犯たちがその後、釈放されるまでの数年間プリズンの中で送った日々。締め付け、絶望それに対して、講和条約後の驚くほどの自由・・・そんなことには思いを寄せることもなかった。 そして、「戦犯」に対する認識・・・ ――戦争裁判は、裁判という形式をとりながらあくまでも戦勝国の一方的な報復の性格をもつ―― この事実を分かっていながら、”戦犯=犯罪者、悪人”という図式から逃れられないでいた。 知っているつもりでいることは、知らないことよりももっと罪が深いのかもしれない・・・これまで戦争に関連する本を多く読んで、なんとなく色んなことを分かったようなつもりでいたけれど、常識にとらわれず、もっと深く知る努力をしていかなければならないと強く、深く心に刻んだ読書でした。
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刑務官としての任期を全うし、引退後釣りを楽しむ生活をしている鶴岡は、終戦直後巣鴨プリズンに赴任し、奇妙な時期をすごした経験をもっていた。 二つの祖国を読んでからの東京裁判繋がりで手にした作品。 舞台となった巣鴨プリズンは、東京裁判以降でしたが、とても興味深く読みました。 小説...
刑務官としての任期を全うし、引退後釣りを楽しむ生活をしている鶴岡は、終戦直後巣鴨プリズンに赴任し、奇妙な時期をすごした経験をもっていた。 二つの祖国を読んでからの東京裁判繋がりで手にした作品。 舞台となった巣鴨プリズンは、東京裁判以降でしたが、とても興味深く読みました。 小説としては、年老いた鶴岡の部分以外は、事実を連ねるばかりの形式のため、少し読みにくい感じます。 もう少し段落、単元ごとになっていたら良かったのに、と思ってしまいました。 所長や事務官の配慮で、野球観戦に行くシーンが好きです。 この作品に触れて、戦犯についての認識がかなり変わりました。 良い読書でした。
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戦犯となった人たちの巣鴨プリズンでの日々が、日本人刑務官の目線で描かれてる。あとがきに、プリズンの事務官の1人に話を聞いたとあった。プリズンに関する話は全て事実だって。行進の練習をするシーンは、何ともいえない気持ちになる。そして、戦犯が農場に手伝いに行ったときの様子も本当にあった...
戦犯となった人たちの巣鴨プリズンでの日々が、日本人刑務官の目線で描かれてる。あとがきに、プリズンの事務官の1人に話を聞いたとあった。プリズンに関する話は全て事実だって。行進の練習をするシーンは、何ともいえない気持ちになる。そして、戦犯が農場に手伝いに行ったときの様子も本当にあったことなら、映画のワンシーンのように人の優しさを描写していた。
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吉村昭は初めて読みましたが綿密な取材に支えられたストーリーで面白かったです。歴史を題材にしたものがもっと読みたくなりました。
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戦勝国が敗戦国を裁いた極東国際軍事裁判の判決により巣鴨プリズンに収監された戦犯を同じ日本の刑務官が監視するという話であった。 大物A級戦犯の刑務所内の日常が描かれるのかと期待していたのだが、当てがはずれました。
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戦犯を収容する巣鴨プリズンを背景に、事実を交えて架空の人物を通した戦後の日本の動きを見るってな感じかな。こういう解説はないが、私の感想はこんな感じ。で、一言で言えば全く面白くなかった。 どんなオチがあるのかと読み進んだが、面白くない。あとがきで作者は他の世界で自由に書いてみ...
戦犯を収容する巣鴨プリズンを背景に、事実を交えて架空の人物を通した戦後の日本の動きを見るってな感じかな。こういう解説はないが、私の感想はこんな感じ。で、一言で言えば全く面白くなかった。 どんなオチがあるのかと読み進んだが、面白くない。あとがきで作者は他の世界で自由に書いてみたいと思ったときの作品と振り返っている。高熱随道とか戦艦武蔵とかのイメージでこの作品を読むと違うイメージだなぁと思うのはこのせいかな。
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戦犯を収容していた巣鴨プリズン。そこで刑務官をしていた鶴岡。その当時のことを思い綴る。 戦勝国が敗戦国を裁くという矛盾。戦犯って悪い人たちだというイメージがあったけど、同名の人と間違えられてつかまった事もあったらしい。戦後何年も経つと、一般の刑務所と違って、収容者も自由に出入り...
戦犯を収容していた巣鴨プリズン。そこで刑務官をしていた鶴岡。その当時のことを思い綴る。 戦勝国が敗戦国を裁くという矛盾。戦犯って悪い人たちだというイメージがあったけど、同名の人と間違えられてつかまった事もあったらしい。戦後何年も経つと、一般の刑務所と違って、収容者も自由に出入りが出来たりしたらしい。近代史のことって本当に知らないよね。朝鮮戦争ってアメリカが韓国に、ソ連が北朝鮮に荷担してたんだって。
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