鹽壷の匙 の商品レビュー
車谷長吉氏の初期作品を集めた短編集で有るが、読後感の重厚性は氏の作品群の中でも「赤目四十八滝心中未遂」と双璧をなしている。 この重厚感の原因を見事に解析しているのは、巻末に有る吉本隆明氏の評論であり、作品と評論が一体となってこの書物を完成していると感じた。 是非とも読んで下さい。...
車谷長吉氏の初期作品を集めた短編集で有るが、読後感の重厚性は氏の作品群の中でも「赤目四十八滝心中未遂」と双璧をなしている。 この重厚感の原因を見事に解析しているのは、巻末に有る吉本隆明氏の評論であり、作品と評論が一体となってこの書物を完成していると感じた。 是非とも読んで下さい。久々の毒の有る私小説を読んで、爽快な気分が長く残りました。
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短編集。『赤目』ほどの激烈な印象はなく、どこか(良くも悪くも)時代遅れの、一つ一つの的確な描写が静かに狂っている雰囲気を伝える。それはそれで好みなのでいい。『赤目』のアヤちゃんを思わせる女性が出てくる「萬蔵の場合」が好きだった。この手の妖艶な不思議系女子(?)の話は引き込まれた。...
短編集。『赤目』ほどの激烈な印象はなく、どこか(良くも悪くも)時代遅れの、一つ一つの的確な描写が静かに狂っている雰囲気を伝える。それはそれで好みなのでいい。『赤目』のアヤちゃんを思わせる女性が出てくる「萬蔵の場合」が好きだった。この手の妖艶な不思議系女子(?)の話は引き込まれた。それとは別の、掌編集「愚か者」の中の「トランジスターのお婆ァ」がすごい。
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2013.10.30 読了 久しぶりに私小説らしい私小説。 文章が美しい。 シーンシーンは重くて湿り気のある空気が充満しているんだけど、すっ、すっと入っていけるし読み進められる、その圧倒的な自然感。とてもよかった。
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古本で購入。 作者自ら「生前の遺稿」と呼ぶ6編の作品を収録した短編集。 「救済の装置であると同時に、一つの悪である」 私小説を 「書きながら、心にあるむごさを感じつづけて来」 ながらも書かずにいられなかった、己を捨てられたものと思い続けたきた作者の心の淵を覗く気分。 肉親に歪...
古本で購入。 作者自ら「生前の遺稿」と呼ぶ6編の作品を収録した短編集。 「救済の装置であると同時に、一つの悪である」 私小説を 「書きながら、心にあるむごさを感じつづけて来」 ながらも書かずにいられなかった、己を捨てられたものと思い続けたきた作者の心の淵を覗く気分。 肉親に歪みやきたなさを見た幼子の失望、どうしようもなさ、そういうのが詰まってるようで痛い。 「世に在ることはさみしいな」 この言葉につい共感を覚えてしまった。
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自分にとって小説を書くことは救いであり、同時に一つの悪である──この人自身のあとがきが、この小説集を端的にまとめている。 読めるのだから、確かに私も持っている語彙で語られているはずなのだ。同じ言葉を持っているのだから、世界のある部分を共有しているはずなのだ。それなのに何故こんなに...
自分にとって小説を書くことは救いであり、同時に一つの悪である──この人自身のあとがきが、この小説集を端的にまとめている。 読めるのだから、確かに私も持っている語彙で語られているはずなのだ。同じ言葉を持っているのだから、世界のある部分を共有しているはずなのだ。それなのに何故こんなにも、普段物陰に隠れて見えなかった世界を、読まなければシールドの向こうの曖昧な輪郭しか知らなかった世界を、まざまざと見せつけられる気がするのだろう。たとえて言うなら、斜位の瞳、両眼視しているときは綺麗にずらされて焦点が合っている、そこから片眼を隠した時にずれる分ほどわずかな、空間、そこに熱い息を押し殺して這い蹲っているもの。その世界。 訥々と語り続ける「私」はどこまでも「私」であり、「私」以外たり得ない。責任を負う、というのとは違う、打算や倫理とも別次元にある、そののっぴきならなさがそのまま生きることだ。そしてそれが良いとも、正しいとも、「私」には言えない。竜巻の中にある者に、天は見えない。 地面にずるずると軀を引きずっていくような、自らに刻みつけるようなこんな文章を、よくも書き続けられるものだと思う。「生前の遺稿」とはむべなるかな。 こんな世界がこの世にはあるのだということを、摩擦のない読書では知り得ない感覚を、教えてくれた。ラスト二篇の「吃りの父が歌った軍歌」と「盬壺の匙」がことに好き。
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物語らしさが強かった「なんまんだ絵」と「白桃」は良かった。だが、その他の「私」小説は登場人物に1人として清々しさは感じられず、強欲だったり、嫉妬心にとらわれていたり、気が狂っていたりと、いくら読み進めても、鬱々とする内容が続く。大抵の小説なら、何らかの救いが見えたり、あるいはさら...
物語らしさが強かった「なんまんだ絵」と「白桃」は良かった。だが、その他の「私」小説は登場人物に1人として清々しさは感じられず、強欲だったり、嫉妬心にとらわれていたり、気が狂っていたりと、いくら読み進めても、鬱々とする内容が続く。大抵の小説なら、何らかの救いが見えたり、あるいはさらに悪へと落ちていったりするが、それもなく、果てしなく重苦しいものが続いていくように感じる。 これほどうっ屈とした幼少期を過ごす人がいるのか、と驚く反面、それでも、描かれている黒々としたものは、自分にもあるとしっかり自覚でき、なぜか静かな心持ちになって読み終えた。
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冒頭からの数編、とくに「萬蔵の場合」読み難し。私小説の性格がおおきく出てしまい、おのれに肯定的すぎる姿勢がいけない。好かない。 おれはモテる おれは某大学を出た秀才だ おれが小説をひさぐ理由は… なんて、俗っぽいエゴを感じさせる書き方は、態とか態とでないかは、わからないが...
冒頭からの数編、とくに「萬蔵の場合」読み難し。私小説の性格がおおきく出てしまい、おのれに肯定的すぎる姿勢がいけない。好かない。 おれはモテる おれは某大学を出た秀才だ おれが小説をひさぐ理由は… なんて、俗っぽいエゴを感じさせる書き方は、態とか態とでないかは、わからないが、「世捨て」へと走らせたのはこのエゴに他ならないんじゃないかと邪推させてしまう。 「萬蔵の場合」では、おれが恋した女は特別でなきゃ、といった体で、櫻子の魅力がさまざまに語られるが、それが端からしたら、薄ら寒い。 おのれについて殆ど語らない2編「吃りの父が-」「塩壷の匙」は、★4つ。
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なんだか背筋をピンとさせられるような一冊。 この作品集の中にある「萬蔵の場合」を映像化したいものだ。
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表題作は二十一歳で自殺した若い叔父の話を中心に、幼少の頃暮らした田舎の家やそこで暮らす肉親の来歴を綴ったもの。といっても叔父の死がメインテーマかというとそういう感じでもなく、叔父以外の人々についてもほとんど同じだけの執着心を持って書かれている。「私」の語り(「暴く」という言い方を...
表題作は二十一歳で自殺した若い叔父の話を中心に、幼少の頃暮らした田舎の家やそこで暮らす肉親の来歴を綴ったもの。といっても叔父の死がメインテーマかというとそういう感じでもなく、叔父以外の人々についてもほとんど同じだけの執着心を持って書かれている。「私」の語り(「暴く」という言い方をされているが本当にそんな容赦のなさがある)からは、「私」や叔父を含む一族に関して、そもそも「語る」という事そのものに関して、業とか修羅とかいう言葉が連想された。 金貸しの祖母や曽祖父の間で明らかに異質であった叔父に対して、「私」は皆と同じ様に異質な者として扱う事も何らかの似通う性質を持つ者としてシンパシーをこめる事もしない、奇妙な無関係さの中に自身を置いているのが語りから感じられた。「私」にここまで語らせる事が、それだけの違和感を「私」もまた感じている事を意味しているのかもしれないが。といってまったく無関心なわけでもなく、自身を業の深い者のうちに含める事を回避しているわけでもない。上手く言えないが。そこが面白く思えた。
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中上健次を彷彿とさせる、主に身内を題材にした小説。 凄まじい。 漢字の多用が多少読みにくいが、内容はそれを補って尚余りある濃密さ。
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