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インドへの道 の商品レビュー

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2022/03/24

ようやく読めて感動している。『天使も踏むを恐れるところ』ではイギリスとイタリアの、『ハワーズ・エンド』ではイギリスとドイツの価値観のズレと軋みを描いたフォースターがついに、イギリスとインドの出会いと対立を描く。イギリスとインドというのはもちろん、支配国と被支配国であり、この本の舞...

ようやく読めて感動している。『天使も踏むを恐れるところ』ではイギリスとイタリアの、『ハワーズ・エンド』ではイギリスとドイツの価値観のズレと軋みを描いたフォースターがついに、イギリスとインドの出会いと対立を描く。イギリスとインドというのはもちろん、支配国と被支配国であり、この本の舞台となっている20世紀初頭のインドはイギリスの植民地である。更にインドにはカーストがあり、雑多な宗教があり、国内の状況は非常に混沌としている。そんな複雑な場所を舞台に、インドのインテリ医師と、インドに理解を示すイギリス人の「出会い損ない」を描く手腕は相変わらず見事。そして、インドに自分勝手な興味を抱くイギリス人女性を狂言回しに置き、中頃では事件や裁判が次々と展開していくので、しっかりとした厚みを持つ長編ながら、最後まで飽きずに読んだ。文章はいつもの通り平易ながら飾り気があり、思わせぶりな分かりにくさなどとは無縁で、しかし神やインドの混沌をしっかりと語っていく。私も学生時代に何度かインドには行ったことがあるが、あの国の全てが曖昧で、全てが大いなるものに巻き込まれていってしまう感みたいなものが、小説の底から滲み出てくるような気がする。冒頭の架空の町の描写と、ラストシーンがとても美しい。 韓国の文芸評論家が「日本の近代文学はフォースターの『インドへの道』にあたる作品を残すことがなかった」と指摘しているのには新鮮な発見があった。日本の植民地支配は地理的・文化的に近いところで行われたので、イギリスにおけるインドのような圧倒的他者との出会いがなかったのかと思うが、それにしても、自分たちを蹂躙したアメリカとの関係ばかりに重きを置き、かつて宗主国だったこと・加害国としての日本に、日本の近代文学が疎かったのは確かか。

Posted byブクログ