ハノイ挽歌 の商品レビュー
ずっと最近の文章を読んでいて、この初期の作品に戻ると、いろいろな意味でこの頃の辺見さんは他者への眼差しがまだあたたかいというか、批判する相手をも包み込む力のようなものを感じる。もちろんベトナム戦争の傷痕や湾岸戦争を見ながら、米国やベトナム共産党書記長など、著者が向かい合った人々や...
ずっと最近の文章を読んでいて、この初期の作品に戻ると、いろいろな意味でこの頃の辺見さんは他者への眼差しがまだあたたかいというか、批判する相手をも包み込む力のようなものを感じる。もちろんベトナム戦争の傷痕や湾岸戦争を見ながら、米国やベトナム共産党書記長など、著者が向かい合った人々やものごとへのさまざまな思いが、文章のあちこちに埋められてはいるけれど。この作品からすでに30数年、あまりにも失望させられるもの、人を見過ぎているうちに、言葉も気持ちも鋭くなったのかもしれない。 「言葉のもっとも正確な意味で、南ベトナムは解放されたのだろうか」というベトナムの共産党書記長の取材で辺見さんが持った思い、書記長の痛々しいほど切実なまなざし。表に出てくる言葉だけでなく、ある立場にある者としての語りではなく、個人として本当はどう思っているのか、というシンプルで真っすぐな問い。戦争の大義や勝敗、政治的なかけひきは脇に置いて、一人の人間として、本当は悲しいはずではないか、後悔したのではないか、という問いはとても重い。誰もがここまで下りていくことができれば、平和はもう少し手に入りやすくなるはずだから。
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誰が好きってやっぱり辺見庸さんが好き。 あの行間に漂う色気はただごとではありません。 いつかこんな文章が書けたらな、といつも仰ぎ見る思いで、居住まいを正して読むのです。 辺見さんの著作はすべて収集済みと思っていましたが、初期のこの作品は未読でした(単行本は1991年発行の「ナイト...
誰が好きってやっぱり辺見庸さんが好き。 あの行間に漂う色気はただごとではありません。 いつかこんな文章が書けたらな、といつも仰ぎ見る思いで、居住まいを正して読むのです。 辺見さんの著作はすべて収集済みと思っていましたが、初期のこの作品は未読でした(単行本は1991年発行の「ナイト・トレイン異境行」)。 アマゾンのサイトを眺めていて気付き、慌てて購入しました。 一読して辺見さんの「ですます調」が新鮮で、内容よりもまずそのことに注目しました(その他の著作は「である調」)。 共同通信ハノイ支局時代に書いた随想が大半。 残りもハノイに関するエッセーです。 眼前の風景に対する透徹した眼差しは相変わらず。 しょっちゅう停電するハノイの闇にまつわるエピソードを書いた「闇のなかで」はうっとりしながら読みました。 たとえば、こんな描写に陶然となります。 「ぼくは近づきました。火事と見えたのは、火炎樹の大木なのでした。それが並木になって続いているのです。赤みの強いオレンジ色の花が群れて咲き狂い、闇を焼いています。その花のトンネルの下に立つと、咲ききった花弁が、ポトリポトリ、火の粉のようにぼくのからだに落ちてくるのです。火傷しそうでした」 書き写していて思いましたが、ちょっと気障ですね(笑) 「闇」は辺見さんの著作について語るうえで重要なモチーフですが、このころから関心を寄せていたのを知ることができたのは収穫です。 豊かな日本と貧しい当時のベトナムについて考察した「プレモダン」の問題提起は、今なお有効と思いました。 米軍がベトナム戦争中にまいた枯葉剤の影響で奇形児として生まれた赤ちゃんのホルマリン漬けを描写した「赤ん坊」を読んで、はっきりと胸の鼓動が速くなるのを感じました。 1編1編が実に重々しいです。 最後に読売新聞出身の作家、日野啓三さんとの対談「新聞言語と小説言語の狭間で」は大変興味深く読みました。 と言いますのも、私も新聞記者の端くれで、私生活では下手な小説を書いているからです。 私は以前に自分のブログで「同じ文章でも新聞原稿と小説原稿はまったく違う」といった趣旨のことを書きました。 対談ではお二人とも同趣旨の発言をしていて我が意を得たりの思いがしました。
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ベトナムの暑く、湿っぽい雰囲気をうまく救い上げて、文体もそれを表現するように、つむがれている。 緩やかな波長での生活が、伝わってくる。 効率という経済的な理論がベトナムに侵入することで、ベトナムのよさが少しづつ失われていくような、感じが表現されている。 ベトナムという国のさまざま...
ベトナムの暑く、湿っぽい雰囲気をうまく救い上げて、文体もそれを表現するように、つむがれている。 緩やかな波長での生活が、伝わってくる。 効率という経済的な理論がベトナムに侵入することで、ベトナムのよさが少しづつ失われていくような、感じが表現されている。 ベトナムという国のさまざまな音。鳥のさえずり、バイクの音。 ニンゲンの話し声。テレビなどの音、などが騒然と外から聞こえてくる。 アメリカという国の愚かさを、ベトナムからみている。 ベトナム戦争をして、敗北し、学んだ筈なのにまた戦争をしている。大義というものの持つ不条理が、明らかにされる。 しかし、ベトナム戦争はアメリカ人の死者が4万にんで、ベトナム人は百万人をこえる それでもベトナムは勝利したのだろうかとかんがえる視点は新鮮だった。それは共産党の勝利ではないはずなのに、いつの間にか共産党の勝利に置き換わっている。 ただ、この本では、アメリカの爪痕がきちんと残っているが、太平洋戦争においての日本の行った爪痕はほとんど残っていないのが残念な気もする。
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