達成動機の理論と展開 の商品レビュー
本書では達成動機に関する理論の歴史的な展開と内容が書かれている。 扱われる理論の多さからそれぞれの紹介はカタログ的であるものの、背景や他の理論と区別される点なども丁寧に書かれているので、それぞれの理論の違いを確認しながら読み進められる構成になっている。 各章の最後には【リーディ...
本書では達成動機に関する理論の歴史的な展開と内容が書かれている。 扱われる理論の多さからそれぞれの紹介はカタログ的であるものの、背景や他の理論と区別される点なども丁寧に書かれているので、それぞれの理論の違いを確認しながら読み進められる構成になっている。 各章の最後には【リーディング・ガイド】という形でその章で扱われた内容に関する推薦図書が記載されている。個別の理論は一応その背景も含めて説明されているものの、個別の理論について知りたい場合は、推薦図書をあたって具体的な事例について学ぶ必要があるだろうと感じた。 本書は序章と9つの章から構成されている。 序章 達成動機の理論、第1章 達成動機、第2章 達成動機づけ理論、第3章 テスト不安、第4章 随伴性認知、第5章 自己効力、第6章 内発的動機づけ、第7章 自尊心の維持と高揚、第8章 目標理論、第9章 特徴的な達成現象とその理解 例えば、第4章では強化が生起したときにそれが自分の行動に随伴しているか(自分の行動に伴って起きているか)、といった認識が動機づけにどのような影響を与えるか、教育現場でどのような傾向が観察されたか、といった話が展開される。 ここで紹介される学習性無力感は本書で数回に渡って触れられている。 第7章の自尊心の維持と高揚では、自己高揚動機や防衛機構について紹介されていて、「抑鬱者が非抑鬱者に比べて外界を正確に認知する」などおもしろい傾向が紹介されている。また、自尊心への影響を最小限にとどめるための先制的方策とされるセルフ・ハンディギャッピングや、能力の評価が努力の少なさによって強化される場合に敢えて努力を差し控える方策がとられる場合があるなどの事例が記載されている。 第8章の目標理論も興味深く、「困難に直面すると持続性や挑戦性を容易に失って無力感に陥る子どもと、困難な課題に積極的に取り組み、遂行水準を維持し続ける子どもの相違はどうして生じるのだろうか」という問いに端を発するドゥエックの目標理論が紹介されている。能力の増大を目標とする学習目標が努力によって内発的な満足や誇りを得る一方、評価を目標とする遂行目標は高努力は低能力を暗示するなどの傾向の違いは興味深い。 多くの事例があり理論展開のすべてを把握するのは難しく、詳細を知るためのリーディング・ガイドも古い本が多く情報に触れることが困難な点は惜しいが、達成動機に関係する概念に触れることができ、とてもいい機会になった。
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