ヘンリー・ジェイムズ『ロンドン生活』他 の商品レビュー
日本で1995年に発行された本書はもう入手困難になっているが、後期のヘンリー・ジェイムズの短編(最初の「ロンドン生活」はほとんど長編に近い中編だが)3つを収めており、貴重なものである。 冒頭の長い「ロンドン生活」を読んでみると非常に読みにくくて戸惑った。「ああ、これが後期ジェ...
日本で1995年に発行された本書はもう入手困難になっているが、後期のヘンリー・ジェイムズの短編(最初の「ロンドン生活」はほとんど長編に近い中編だが)3つを収めており、貴重なものである。 冒頭の長い「ロンドン生活」を読んでみると非常に読みにくくて戸惑った。「ああ、これが後期ジェイムズの晦渋さか」と思いかけたが、この作品の発表された1888年というのは、実は「嘘つき」などと同年である。「嘘つき」は全然読みにくくはない作品だったので、これは妙だ。もしかしたら、本書の役者多田敏男氏、日本語の文章が下手なのではないか?という疑惑がさっと浮上した。そう思って読み進めると、確かに、「そう訳してしまったら日本語の文意がおかしくなってしまう」という箇所が、明らかに散見された。 ということで、どうやら、訳が良くない。 それでも頑張ってジェイムズの精妙な文章を追いかける。訳文はさておいて、1888年の「ロンドン生活」「ルイザ・パラント」の、ジェイムズ特有の精緻さや「謎が残る」書き方を味わうことが出来た。 最後の「フォーダムの館」は1904年、最晩年の作品。何やら奇妙な質感の作品で、この小説の味わいを正確に受け取り判断するためには、もっとこの時期のジェイムズ作品を読んでみないとならないような気がした。 訳文は残念ながら、貴重な本であり、内容の文学的価値は高い。
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