西田幾多郎 その思想と現代 の商品レビュー
西田幾多郎の後期思想の解説書。「弁証法的世界」「行為的直観」「絶対矛盾的自己同一」などのキーワードを中心に取り上げ、西田が世界と自己との関係をどのように捉えていたのかを分かりやすく解説している。ただし、そうした西田の世界理解にどのような根拠があるのかという観点からの説明が不足して...
西田幾多郎の後期思想の解説書。「弁証法的世界」「行為的直観」「絶対矛盾的自己同一」などのキーワードを中心に取り上げ、西田が世界と自己との関係をどのように捉えていたのかを分かりやすく解説している。ただし、そうした西田の世界理解にどのような根拠があるのかという観点からの説明が不足しているような印象をもった。 「場所」の思想によってみずからの立場を確立した西田は、いまだ形而上学的な根拠として理解される余地を残していた場所を弁証法的世界として具体化していった。私たちは世界を外から観照する意識的自己ではなく、歴史的世界の創造的要素として働く行為的自己だと西田は考える。こうした世界と私たちの自己との関係を世界自身の自己形成の働きに即して捉えたのが「作られたものからつくるものへ」という関係であり、他方この弁証法的世界の構造を主体の形成の働きに即して捉えたものが「行為的直観」である。さらにこうした弁証法的世界の論理的構造が「絶対矛盾的自己同一」と表現される。 著者は、こうした西田の後期思想が意識的自己の立場に立脚してきた西洋近代の哲学を乗り越える構想を含んでいたことを評価している。だが他方で、そうした西田の思想になおも残っている観想的性格を三木清は批判していた。西田は、私たちの自己が世界の内に立っていることを自覚し、「物となって考え、物となって行う」こと、つまり物の真実に行くことを主張する。彼は、自己を否定し自己の底へと進むことで、歴史的世界のおのおのの瞬間が「永遠の今」に直接していると考える。だがこうした発想は、自己の理解を変革することを説いたものであって、現実の世界を具体的に変革する道筋を示すものではないといわなければならない。著者はこうした三木清らの批判を踏まえながら、現実の世界における実践に関するより具体的な理論を構築する方向へと、西田哲学を批判的に継承する道筋を探っている。
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