赤い鳳仙花 の商品レビュー
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ぼくはいつも彼女に恋をしているあの満月の夜、初めて見かけた時のよう ミナミの歌舞伎座で働いていた若い二人の恋物語。千日前の四つ角にあった歌舞伎座は千日デパートとなり、火災で多数の死傷害を出した後、暫く残骸を曝していたが、今は「プランタン』デパートとなってている。 彷徨う青春の真っ只中。運命の女性は同じ市電に乗った。 1952年高校三年の鶉野は新聞部部長として「破紡績は悪法という記事を書いて校長と対立。放課後は歌舞伎座の進駐軍キャバレーででエレベータボーイをしていた。 ポケットにメリケン(凶器)を忍ばせ、喧嘩相手を求めて道順堀を彷徨う鶉野は、荒ぶる心を鎮めるために体を酷使し、泥のように眠るろうと、このバイトを選んだ。だが、そこは暴力団の巣窟。彼はとんでもない道に突っこんでいくかもしれない岐路に立っていた。 満月が輝くある夜更け、バイトを終えた鶉野は日本橋の停留場で市電を待っていた。その時、彼の心運命を変える女性が同に電車に乗った。 「北浜で女の人が下車しようとして定期券を鞄から探し始めた。それも降りる間際になって慌ててだ。ぼくはきっとその人のクセなんだろうと可笑しかった。もっと早く降りる準備をすればいいのに! でも女の人の横顔はびっくりするほど綺麗だった。フランス女優みたいやなぁ、とぼくは思った。知的で優雅で震えるほどコケティッシュだった』。十八歳の少年は生まれて初めてをした。 翌日の夕方、鶉野は昨夜の女性と歌舞伎座のビルで再会。こんなドラ マチックなことがあっていいのか? 恋する少年は、彼女の名が新星英子であるごとを探り出す。新屋は体調 を崩して女優を休業、歌舞伎座ビル内の千日前興行宣伝部で働いていた。やがて二人は肩を並べて天満橋まで歩いて帰るほど親しくなった。 真っ黒な幕がバサッと落ちて縁の水平線の彼方に、新しい世界 少年は『新屋に導かれて』猛烈に勉強するようになる。『文学、哲学、社会科学、経済学ー歴史の真実にやがて触れていくようになるとぼくの目の前の真っ黒な幕がバサッと落ちて、緑の水車線の彼方に新しい世界が広がっていると実感した』 この物語は、関西芸術座の創立メンバーで、映画『旅の重さ』『愛の亡霊』や一人芝居『身世打鈴(シンセタリョシ)』等で著名な女優・新屋英子と著者がともに歩んだ歳月をふりかえり、「新屋の真心に応えるために」全力を尽くして書き上げた。 最後に鶉野はこう書いている。 『いまでも真夜中、ぼくは叫び声を上げそうになって寝床からはっと体を起こすことがある。(略)だけど隣の部屋に新屋がいると思っただけでぼくは耐えられる。ぼくはいまでも、あの夜空に満月が輝いていた日本橋の市電の停留所で彼女を見かけて恋をしてしまったときと同じだ」。
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