森鴎外全集(4) の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
有名な「雁」や「阿部一族」などを収めた森鷗外の作品集。鷗外といえばわが国の文学史上、夏目漱石と並び称される文豪であるが、個人的にはそこまで優れているとも思えなかった。さすがにどの作品も退屈させずに読ませるだけの力量はあるのだが、しかし「雁」は結局結ばれることのなかった恋心を描いているため、物語の中身があってないようなものだし、歴史小説はどうにも衒学趣味というか、必要のないことまでダラダラと書かれていてまとまりがない。ネタ元の引き写しの域を脱せていないと思う。そんななか、「護持院原の敵討」はなかなか面白く読むことができた。一般的には知名度もさほど高くないと思うが、映像化にも向いていると思う。むしろ「高瀬舟」などよりもこちらのほうがよほど印象的で、もっと有名であるべき作品である。
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・天寵(てんちょう) 主人公となった、実在の画家Mくん/宮芳平(みや よしへい)は、文展に出品した作品が落選したことが、どうしても納得がいかず、審査委員長を勤めた森鴎外の家へ押し掛けます。 「あの画は、布、顔料、額縁に、持っていただけの金をかけ、 費やされるだけの...
・天寵(てんちょう) 主人公となった、実在の画家Mくん/宮芳平(みや よしへい)は、文展に出品した作品が落選したことが、どうしても納得がいかず、審査委員長を勤めた森鴎外の家へ押し掛けます。 「あの画は、布、顔料、額縁に、持っていただけの金をかけ、 費やされるだけの時間を費やし、嘗められるだけの苦辛を嘗めて、為上(しあ)げた。 ほとんど自分の運命は懸けて、あの画にあると云っても好い。 そこで、せめてもの心遣(こころや)りに、あの画のどこが格に合わぬか、 聞かせて貰いたい・・・」 鴎外は、Mくんを丁重にもてなしこう云います。 『……私は、少しも君の画を嫌う念を有していない。 君の画には、公衆の好みに、阿(おもね)った跡もなく、また大家の意を迎えた跡もない。 これは、君が何を能(よ)くするか、と云う問題である。』 鴎外は、この時、宮の素質を見抜いていたといいます。非常に純粋で、自分の感情に正直な心。画自体は、リアリズムで描かれたものではないけれど、大正期の青年特有の強烈な意思をそのまま画にしたような画面。そこから、物語が浮かび上がってくるようなところを、鴎外は買っていました。 ある日、Mくんは、また約束もなく鴎外の家を訪ねこう云います。 「友人たちが、自分の画を《奇態》だといって笑う・・・・」 鴎外はそれを訊いて、微笑みながら、 『ほほう。そうだね。 でも君、毛虫は《奇態》だろう? しかし、毛虫はやがて、《蝶》なる。 君のその嘘偽りのない気持ちを積み重ねていけば、最後には奇態な画でもやがて蝶になる。』 宮の描いた作品『歌』。 咲き誇る椿。その下で、男女が顔を寄せ合うロマンチックな作品。鴎外はそれを購入し、生涯自宅に飾っていました。 「私の正直を見てもらいたい その盛り上がった一筆一筆のかたまりが、その一つ一つの陰影が、 画面に、不在の絵の具の美しさ、を加味していることを時折思う」 宮芳平 貧しいなか、画も売れず、大きな名声を得ることもできなかった宮が、逆境の中で、ひとつの気持ちを貫いていく。 画を描くために、大切なことはなにか。 それを、教えてくれたような気がしました。
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雁 ながし 鎚一下 天寵 二人の友 余興 興津弥五右衛門の遺書 阿部一族 佐橋甚五郎 護持院原の敵討
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歴史小説を読むと、久生十蘭の歴史小説を思い出しました。 きっと鴎外作品を手本にしているとおもいます。
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