日米関係通史 の商品レビュー
現・一橋大学名誉教授の細谷千博が中心になって、戦後50年の節目の年に、140年間の日米関係を9人の日本近現代外交史家が描いた画期的な通史である。 【構成】 第1章 幕末期の日米関係 1853-1867(本橋正) 第2章 近代国家樹立の目標と日米関係 186...
現・一橋大学名誉教授の細谷千博が中心になって、戦後50年の節目の年に、140年間の日米関係を9人の日本近現代外交史家が描いた画期的な通史である。 【構成】 第1章 幕末期の日米関係 1853-1867(本橋正) 第2章 近代国家樹立の目標と日米関係 1868-1895(大畑篤四郎) 第3章 転換期の日米関係 1896-1914(入江昭) 第4章 大正デモクラシーとワシントン体制 1915-1930(三谷太一郎) 第5章 真珠湾への道 1931-1941(細谷千博) 第6章 戦争と占領 1941-1951(五十嵐武士) 第7章 日米「パートナーシップ」への道程 1952-1969(石井修) 第8章 東西関係の変化と日米関係 1969-1984(佐藤英夫) 第9章 ポスト覇権時代の日米関係 1985-1993(宮里政玄) 第3章から入江昭、三谷太一郎、細谷千博、五十嵐武士、石井修と今となっては大御所、長老格となっているビッグネームがずらりと並んでいる。 特に入江氏の手がけた第3章は、かなりマクロな話が展開され、一般的な実証資料による緻密な外交史研究ではなく、タイトルの通り日米関係のパースペクティブの転換を植民地化していく中国に焦点をあてて、論じている。個人的には、続く第4~第5章は協調主義的な日米関係の推移を論じ、特に経済関係の深まりがこのワシントン体制の維持を指向し、アメリカにおける知日・親日派あるいは日本における知英米派を産み出す下地になっていたことを感じさせる。 それにひきかえ戦後史はいささか通り一遍の感が強い。特に第6章は、アメリカの軍事戦略にも対日経済政策にも踏み込まず憲法制定と講和条約批准のみを描くのは期待はずれであった。一方、第7章以降は経済政策に力点を置いて日米のパートナーシップの質的変化を論じる視点は面白いが、東アジア・環太平洋の国際関係を俯瞰できるようなマクロな構造転換について言及があってもよかったのではいないかと思う。 また、明治・大正期のアメリカナイゼーションや文化交流については言及があるのに、どぎついまでに戦後社会にとけ込んでいる日本国内の文化的・社会的<アメリカ>について全く触れられていないのは、外交関係に重点を置いた本書の盲点であると言えるだろう。 しかし、そういった点を差し引いたとしても、教科書的な通史ではなく、当代一流の歴史家たちがパーソナリティを出しながら描く日米関係の論文集としては非常にレベルの高いものである。近現代史の流れを大まかにつかんでいれば、楽しめるはずである。
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