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欧州家禽図鑑 の商品レビュー

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2016/07/11

欧州(英国中心)の家禽、具体的にはニワトリ・アヒル・ガチョウの図鑑である。 主著者である秋篠宮親王といえば、鯰の研究が比較的知られているかと思うが、現在、山階鳥類研究所の総裁で、鳥にも造詣が深い。 英国に、絶滅に瀕したものを含めて、多様な家禽品種を保存するドメスティック・ファウル...

欧州(英国中心)の家禽、具体的にはニワトリ・アヒル・ガチョウの図鑑である。 主著者である秋篠宮親王といえば、鯰の研究が比較的知られているかと思うが、現在、山階鳥類研究所の総裁で、鳥にも造詣が深い。 英国に、絶滅に瀕したものを含めて、多様な家禽品種を保存するドメスティック・ファウル・トラスト(The Domestic Fowl Trust)という団体がある。秋篠宮が英国滞在時、この団体を訪れて標本写真を撮り、別の研究者らが解説を執筆、さらに主著者・共著者の小論文を巻頭・巻末に付して、書籍を構成している。 最初は英国で出たものの翻訳書なのかと思っていたので、品種名が五十音順になっているのに少し面食らった。 一部、前述のトラストのオーナー夫妻による論文があり、その箇所は翻訳されているが、残りは本書向けに書き下ろされたもののようである。 欧州(英国)家禽の日本向け図鑑である。 大部分は図鑑部分で、収録されている品種は内種を含めて150種である。内種とは、同じ品種内の色違いのことで、例えばオーピントンという種であれば、ブラック、ブルー、バフ(buff:淡黄色)、ホワイトの4内種がある。 説明は学術的で、体重、卵殻色、肉冠(色や形状)、眼、嘴、肉髭、脚、皮膚、内種の各項目に加え、来歴、特性が簡潔に記されている。 現在、養鶏されているニワトリというと、白色レグホンがまず思い浮かぶが、いや、こんなに種類がいるのか、ととりあえず驚く。見た目が結構特徴的なものもいて、肉冠(鶏冠)が薔薇のようだったり、ふさふさした羽がはえていたり(羽冠)する。脚が毛深いものもいる。体型もずんぐりだったりスリムだったり,大型だったり軽量だったりいろいろである。 ニワトリなどの家禽を飼う目的はといえば、肉か卵といった実用的なもの、観賞用、愛玩用などが挙げられるだろうが、かつて、英国では闘鶏用というのが一大分野であった。闘鶏は実は、英国では19世紀半ばに法律上禁止されたが、現在でも隠れて続けられており、そうした品種は表向き、観賞用として飼われているのだそうである。名前に「ゲーム」と入っているのがそうした品種である。 こうした純系品種というのは、さまざま個性を持つ。愛玩用であれば、人に慣れやすかったり、性質が温和であったりする。観賞用であれば、もちろん、姿形や色の美しさ、多様さがあるだろう。闘鶏用なら、活発さ、攻撃性が欠かせないだろう。そして実用向きであれば、肉質に個性があったり、卵が大きかったり、あるいは年間産卵数が多かったりする。 だが、養鶏業で残ってきているのは、非常に限られた品種で、残りの品種は一部の愛好家が細々と繁殖を続けているのみで、どんどん失われつつあるのだという。 なぜかといえば、商業ベースで採算が取れるかで選別されていくからである。非常においしいくても繁殖が難しければソロバンに合わない。産卵も、ある季節に集中するよりは、年間を通じてコンスタントに行うものの方が都合がよいだろう。そうこうしているうちに、「平均的」な風味の、「平均的」に経済的で、「平均的」に飼育しやすいもののみが残ってきているようだ。 こうした流れから、これまでに生み出されてきた多様な種を何とか残そうとしているのが、ドメスティック・ファウル・トラストのような団体である。 図鑑本体はこうした英国の純系種が紹介されているが、巻末に少し日本とニワトリの関わりについても論考がある。 明治期以降、日本にも数多くの洋鶏が入ってきた。こうしたものは投機の対象となり、高騰と暴落を繰り返してきた。やがて卵食や鶏肉食が一般的になっていくにつれ、入ってきた多様な品種が取捨選択され、前述のように経済的に見合うものが残ってきたというのは英国と同様の流れである。 ニワトリの起源は、おそらくはアジアであると見られているようだ。 朝に時を作る習性などから、聖なる鳥とされ、占いに用いられたこともある。闘鶏も楽しみの場合もあるが、神事として行われる地域もあったようだ。 ベストセラーになる本ではないと思うが、こういったある種、「地味な」、博物学的な研究を書籍の形で残すのもまた意義あることなのだろうと思う。 個人的にはなかなか興味深く拝読した。

Posted byブクログ