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シミュレーション小説の発見 の商品レビュー

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2019/08/24

著者は「旭日の艦隊」シリーズ(中公文庫)、「紺碧の艦隊」シリーズ(徳間文庫)など、未来戦記小説を数多く執筆している小説家です。こうした小説は「シミュレーション小説」と呼ばれており、本書はシミュレーション小説とはなにかということを、実作者である著者みずから考察している本です。 本...

著者は「旭日の艦隊」シリーズ(中公文庫)、「紺碧の艦隊」シリーズ(徳間文庫)など、未来戦記小説を数多く執筆している小説家です。こうした小説は「シミュレーション小説」と呼ばれており、本書はシミュレーション小説とはなにかということを、実作者である著者みずから考察している本です。 本書の「序章」において著者は、シミュレーション小説が「戦争を煽っている」という批判を受けていることに触れ、それが誤解だと主張しています。そのうえで著者は、「文学はそれ自体が自己完結をめざすが、シミュレーション小説はそうではない」といい、シミュレーション小説は「いかにして世界平和を目指すか」という問題を解決するための「手段」であり、「道具」だと述べています。もちろん文学の自己完結性という観念に対する批判はこれまでもくり返しなされており、さまざまな文学作品のなかに権力作用を見いだす試みには大きな意味があります。しかしそのことと、実作者がみずからの作品を、たとえ「平和」という包括的な概念であるにせよ、なんらかの政治的な目的のための「道具」だと宣言することとのあいだには、千里の径庭があります。 というところですでにつまづいてしまったのですが、つづく本論を読んでみると、現代思想や精神分析などの概念を、まったく杜撰としかいいようのないしかたで援用しつつ、著者自身の考えるシミュレーションについての考察が展開されています。著者の小説は読んだことがないのですが、「それならひとつシミュレーション小説とやらを読んでみようか」という気も吹き飛んでしまうような内容でした。

Posted byブクログ