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道頓堀川 の商品レビュー

3.9

41件のお客様レビュー

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2021/07/04
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

著者の初期を代表する「川三部作」の三作目。昭和42年、高度成長真っ只中の大阪道頓堀川が舞台。両親を亡くした大学生安岡邦彦は、喫茶店リバーで住み込みで働きながら大学に通っている。リバーのマスター武内鉄夫は、かつて玉突きに命を賭けていたが足を洗い、息子の政夫が玉突きにのめり込んでいるのを快く思っていない。玉突きで生計を立てていきたい政夫はかつて伝説の玉突き師だった父親に勝負を挑む。 「泥の河」では小学生、「螢川」では中学生の視点から世の中を見つめていたが、「道頓堀川」では主人公が大人で人生の悲喜こもごもの当事者になっている。 邦彦は大都市に暮らす人々をどこか覚めた目で見つめている。就職先を決める時期が近づいているものの現実には閉塞感が漂っている。全体的にモノトーンで淡々と日常の話は進行していくが、当時の時代や人々の息づかいが感じられるようにすっかり世界に引き込まれた。

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2022/09/03

後悔し続ける中年とジュブナイルの青臭さ。 当時の“男”の描き方が上手すぎる。 作者の作品では一番好きです。

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2021/01/23

昭和中頃、道頓堀川に間近い喫茶店リバーの店主武内と、そこに住み込みで働く邦彦を中心に、彼らに関係する様々な人々との間で起きた、様々な出来事が筆述された群像劇。 読んでいて自然に胸に浮かんだのは、濁世という言葉。道頓堀川の描写に使われる濁りが、人間世界にも入り混じっている感覚。 け...

昭和中頃、道頓堀川に間近い喫茶店リバーの店主武内と、そこに住み込みで働く邦彦を中心に、彼らに関係する様々な人々との間で起きた、様々な出来事が筆述された群像劇。 読んでいて自然に胸に浮かんだのは、濁世という言葉。道頓堀川の描写に使われる濁りが、人間世界にも入り混じっている感覚。 けれど汚濁ではなく、雑多な事象の重なりによる濁りで、それはどの場所にも、どの時代にもある一側面のよう。 事故で一本の脚を失った犬・小太郎が、この時期の、この地域の人々が、ぎこちなくしか人生を集めなかったことを象徴しているのだと思う。 大学生邦彦の青春譚であると同時に、中年店主武内の回想録でもある。けれど回想は、思い出の中に留まらず武内の現在にも残響として生き続けていた。 話があちこちの人々、あちこちの事件に飛ぶ中、ビリヤードの話が冒頭から末尾までを貫く背骨になっていて、最終場面で武内の涙で以て締め括られる。 皆が皆不器用なりに懸命に明日を求める姿に、前向きな気持ちになれた。

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2021/01/04

小説家、宮本輝が描くまだ戦後の色合いが大阪を舞台にした昭和40年代の学生を中心に描かれる人間模様。 フィクションではあるらしいが、父を失い大阪で学生時代を過ごした著者自身の体験と重なるところがあるとは思う。 登場人物は多岐にわたるが、共通する言葉のは「赦し」ではないかと個人的に解...

小説家、宮本輝が描くまだ戦後の色合いが大阪を舞台にした昭和40年代の学生を中心に描かれる人間模様。 フィクションではあるらしいが、父を失い大阪で学生時代を過ごした著者自身の体験と重なるところがあるとは思う。 登場人物は多岐にわたるが、共通する言葉のは「赦し」ではないかと個人的に解釈する。裏切られようとも、苦しい環境に置かれようともそれぞれがやさぐれずに生きていけるのは、過去を赦す心構えが根底にあるからではなかろうか。 登場人物の一人である喫茶店マスターが、自分の妻と駆け落ちされた易者に20年後に邂逅し、何も気付かない易者に「どんなことが、しあわせやと思いますか?」と聞かれ「辛い悲しいことが起こっても、いっこうにへこたれんと生きていけることが、しあわせやと思いますかねぇ」と答え易を続けもらうマスター。 印象深い一場面である。

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2017/07/25

決して恵まれた環境でないながらも、自分の腕や感覚を信じて生きなければならない。そんな人々で溢れている話。 貧困だからといって終始悩みに埋め尽くされているような悲しい話というわけでもなく、かといって力強く前進していく、という話でもない。ビリヤードの腕だったりコーヒーの腕だったりファ...

決して恵まれた環境でないながらも、自分の腕や感覚を信じて生きなければならない。そんな人々で溢れている話。 貧困だからといって終始悩みに埋め尽くされているような悲しい話というわけでもなく、かといって力強く前進していく、という話でもない。ビリヤードの腕だったりコーヒーの腕だったりファンの多いゲイボーイやストリッパーだったりなにかひとつ特技はあるけれど、それでも何かに依らずに生きていけない。それを自堕落的な生活様態を送る者を出さずに表現しているところは見物。

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2016/02/27

キーワードは「貧しさ」でしょうか。 本書の舞台は大阪道頓堀川。鈍く光る川面で生活する登場人物は、その誰しもが何かしらの「貧しさ」を抱えています。もちろん「貧しさ」とは、金銭的なそれに限りません。離散する宿命を抱えた武内は金銭的には余裕があるのに、とても貧しくみえる人物ではないでし...

キーワードは「貧しさ」でしょうか。 本書の舞台は大阪道頓堀川。鈍く光る川面で生活する登場人物は、その誰しもが何かしらの「貧しさ」を抱えています。もちろん「貧しさ」とは、金銭的なそれに限りません。離散する宿命を抱えた武内は金銭的には余裕があるのに、とても貧しくみえる人物ではないでしょうか。そんな「貧しさ」を抱えた道頓堀川の住人のなかで、ヌードダンサーのさとみが邦彦の前で一心不乱に踊る姿がやけに印象に残っています。「私なんか、毎日、頭が変になってるわ」というさとみの言葉。この「貧しさ」が小説内に留まるものではなく、普遍的なものとして、いたく心に染み入ります。 ところで、まったく悲哀に満ちた作品なのかというと、決してそうではなく、「貧しさ」を抱えたなかでも必死に生きていく、そんな住人の姿に活力をもらうのです。 宮本輝の描く普遍性と前向きな姿勢に心打たれた作品でした。

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2015/01/15

ある男からみた戦後の歓楽街に”寄せ集まった”男と女と仲間と親子の話。特に、男のうちにあるぼんやりとした弱さは個人的にこの一文にすべて、凝縮されているように思う。 ”相手の心の開け具合を計算して、きっちり開いた分だけしか応じ返していかない哀しい人間の習性を、彼等はとりわけ狡猾に...

ある男からみた戦後の歓楽街に”寄せ集まった”男と女と仲間と親子の話。特に、男のうちにあるぼんやりとした弱さは個人的にこの一文にすべて、凝縮されているように思う。 ”相手の心の開け具合を計算して、きっちり開いた分だけしか応じ返していかない哀しい人間の習性を、彼等はとりわけ狡猾に身につけていたが、反面そうした弱さを歓楽街に生きる本物の女たちよりも、一段上手に隠し通す手練に長じていることも武内はよく知っていた。”

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2014/10/09

忘れられない一冊。 ノルウェイの森に似た感情が湧く。 男の子が主人公の話が個人的に好きなのかも。

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2014/05/19

人間の生きる上での芯みたいなのを宮本輝の作品を読んでいるとしばしば感じる。 この作品も同様だ。 これといった新鮮な設定でもないし、話の展開もそんな奇をてらったものではない。だけど生きていくうえで大切な、力強いものが文章から伝わってくる。作者が真摯な気持ちで、物語に、登場人物にむき...

人間の生きる上での芯みたいなのを宮本輝の作品を読んでいるとしばしば感じる。 この作品も同様だ。 これといった新鮮な設定でもないし、話の展開もそんな奇をてらったものではない。だけど生きていくうえで大切な、力強いものが文章から伝わってくる。作者が真摯な気持ちで、物語に、登場人物にむきあっているんだなぁと思った。不思議な気持ちでどんどん読み進めてします。

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2014/01/19

ひとりぼっちの大学生が、多くの人と関わりそして別れを経験すると同時にマスターにもまた息子を通して人生ドラマがある。人物設定や人間関係がまた先生らしさがでて和みます。ラストも良い。

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