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河合隼雄著作集(9) の商品レビュー

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2017/12/23

『明恵 夢を生きる』(京都松柏社、1987年)と、3編の論考を収録しています。 『明恵 夢を生きる』は、ユング心理学の立場から、明恵の生涯にわたる夢の記録である『夢記』の解釈に取り組んだ本です。 著者は、ヨーロッパの父性社会と対比して、日本社会を「母性社会」として特徴づける独...

『明恵 夢を生きる』(京都松柏社、1987年)と、3編の論考を収録しています。 『明恵 夢を生きる』は、ユング心理学の立場から、明恵の生涯にわたる夢の記録である『夢記』の解釈に取り組んだ本です。 著者は、ヨーロッパの父性社会と対比して、日本社会を「母性社会」として特徴づける独自の日本文化論でも知られています。その一方で仏教では、女性は罪障の大きな存在とみなされてきました。ここに、日本仏教における女性という大きな問題が存在しています。 本書では、著者と同じユング派の心理学者であるノイマンが提出した、母性とアニマ性の二つの軸からなる女性元型の模式図を参照しながら、明恵と女性の問題に切り込んでいます。そこで著者は、妻帯を認めた親鸞と比較しながら、明恵がトータルな仕方で女性をめぐる問題に向きあっていたことが論じられています。 ただし著者の関心は、あくまで明恵の夢のユング心理学的な観点からの解釈に限定されていることにも留意が必要です。とくにその背景となっている「母性社会」という概念は、たしかに日本仏教における「天台本覚思想」と重なるところはあるように思うのですが、華厳の立場に立つ明恵の課題が「母性社会」からより高次の心理学的統合に向けられていたということはできないように思います。とくに著者のように意識と無意識を連続的にとらえる立場に立つとき、宗教的な次元の非連続性を捉えそこなうのではないかという危惧を感じてしまいます。

Posted byブクログ