天空の川 の商品レビュー
長らく本棚に並んでいた。本書を購入したきっかけは忘れてしまった。調べてみると購入したのはちょうど10年前であった。 1994年10月発刊の本書は、建設省(現国土交通省)官僚のエッセイである。京都大学大学院を出た秀才で、河川のスペシャリストが、42歳でガンを患った経験が記されている...
長らく本棚に並んでいた。本書を購入したきっかけは忘れてしまった。調べてみると購入したのはちょうど10年前であった。 1994年10月発刊の本書は、建設省(現国土交通省)官僚のエッセイである。京都大学大学院を出た秀才で、河川のスペシャリストが、42歳でガンを患った経験が記されている。遺稿のつもりで本書を出版し、1995年1月に筆者は亡くなった。 病と向き合い、仕事に取り組む筆者の心情が淡々と綴られている。プライドを持って仕事に取り組んでいたこともよく分かる。素晴らしい官僚だったに違いない。 しかし、その淡々とした文章を読み進めていくうちに、それはある種の演技なのではないかと思い始めた。妻を悲しませないために、また後輩を励ますために、さらには自分を落ち着かせるために、努力して淡々と明るい文章を書いているように思えてならないのだ。この文章の奥で著者は、焦り、たじろぎ、苦しんでいたに違いない。 ちなみに、時代のせいなのか草思社という出版社の意向なのか、紙質がとても良い。触っていて心地よく、読むのも楽しい。
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家族をもち、健康のことを意識するようになって、、そういう今(の歳)になってこそ、響く内容だ。 自身との共通項もあり(家族構成とか)、もっと妻のことを想わなくてはという思いにさせられる。 仕事の内容を語る序盤、特に「全国水の旅」「治水学校」と表現される予算ヒアリングの話の臨場感!...
家族をもち、健康のことを意識するようになって、、そういう今(の歳)になってこそ、響く内容だ。 自身との共通項もあり(家族構成とか)、もっと妻のことを想わなくてはという思いにさせられる。 仕事の内容を語る序盤、特に「全国水の旅」「治水学校」と表現される予算ヒアリングの話の臨場感! 各地の災禍や川の個性へのイマジネーションにみちた仕事であり、確かにこう語りたい。 また、一人でできる仕事と大勢でわあわあ言いながらの仕事。予算編成は後者、とも。最後のところは雰囲気が影響っするとは、なるほどな。 そして、こんなに格好良く仕事を語る・表現するのに、自身は口下手で、ただ良い仕事をしていればいいと語るのも少しかっこいい。 死を意識し、「一日を大切に」「したいことがいっぱい胸にわき上がる」と想えるようになったというのは印象的。 また、河川技術者(河川管理者)たるもの、たとえ管理している河川が破堤したときいても、それを疑ったり絶望したりうろたえたりするのでなく、その情報に基づき着実に手順を進めるのだから、死も、受容するのみと語っている。これはこれで確かにそうだろう。(人事担当をしていると、家庭環境のトラブルにも冷静に対応できたときいたこともある) 最後まで、たしかに「絶望」は込められていない(なんなら逆転ホームランにも言及されているが)。 遠藤周作『生き上手 死に上手』には、「死ぬ時は死ぬがよし」とあるそう。延命の方法はもうどうしたってないのだときいて、さっぱりしたという感覚も、なるほどと想うし、一方で家族や親しい人のためにも、勧めてくれる療法や好意は受け入れるのがよいというのもそれはそれで納得である。 妻のショックへの立ち直りも、だんだんと早くなっている。唯一の心配事も徐々に解決するというのも、達観した見方だとも想うが、自分もこのようにできるか、と考えさせられる(そうでなければ少しでもいいから遅くまで生きないと…などとも)。 ※西岡常一さんの、たしか『木に学べ』は読んで感動したが、西岡常一・小川三夫『木のいのち 木のこころ』にも興味がわいた。これもまたいつか、読んでみよう。
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