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裏切られた遺言 の商品レビュー

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3件のお客様レビュー

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2016/02/11

 『存在の耐えられない軽さ』という──文法的におかしいという人もいるが──アトラクティヴなタイトルの映画で何だろうと思ったのがクンデラを知った最初か。以来、ミラン・クンデラはいくつか読んできた。その父親がヤナーチェクの弟子だったということもあってか、彼の書物は文章で綴られた音楽だ...

 『存在の耐えられない軽さ』という──文法的におかしいという人もいるが──アトラクティヴなタイトルの映画で何だろうと思ったのがクンデラを知った最初か。以来、ミラン・クンデラはいくつか読んできた。その父親がヤナーチェクの弟子だったということもあってか、彼の書物は文章で綴られた音楽だ。『存在の耐えられない軽さ』は対位法、『不滅』は変奏曲というように、音楽が下敷きにあるのがみえてくるといっそう面白くなる。  本書はそのクンデラの評論集である。9編の評論の中で、ラシュディ、カフカ、ストラヴィンスキイ、ヤナーチェクなどが中心的に論じられるが、他に、マン、ブルトン、トルストイ、ベートーヴェン、ニーチェなど、クンデラの議論は縦横無尽に駆け巡る。Aを論ずるのにZから始めて、一気にAに接近するといったアクロバティックな話の運びは極めて即興的なようでいて、周到に計算されているのだろう。そして、多岐にわたるテーマを扱っているようでいて、この9編は連作ともなっており、大きなテーマは表題にあるように「裏切られた遺言」。つまり、芸術家の翻訳者・紹介者・擁護者たちがいかに彼らを裏切ってしまうのかということである。  本書でもっとも多く論じられているのが、カフカとヤナーチェクというクンデラのお国のユニークな創作者たちであるが、奇しくも彼らには共通の紹介者がいた。マックス・ブロートである。クンデラはこんな風に書く。このくだりがとてもいい。  不可解なブロート。彼はヤナーチェクを愛していた。彼はどんな下心によっても導かれず、ただ正義感に導かれていただけだった。彼は本質、すなわちその芸術のゆえにヤナーチェクを愛していた。ところがその芸術を、彼は理解していなかったのだ。  クンデラは翻訳者・紹介者・擁護者たちの「裏切り」に憤ってはいるのだが、同時にその「裏切り」に透徹したまなざしを注いでいるのだ。  そしてそれを読む私は、カート・ヴォネガットをまねて、呟くほかはない。  そういうものだ。

Posted byブクログ

2014/10/09

これ程までに多弁で、こんなにも情熱的なクンデラが他にあっただろうか。傑作『不滅』執筆後に書かれたエッセーをまとめた本作では、芸術とは決して不滅のものではなく、その通俗的な側面のみ普遍的なものとして残されてしまう前作の主題に徹頭徹尾、抗おうとしている。カフカとヤナーチェクというチェ...

これ程までに多弁で、こんなにも情熱的なクンデラが他にあっただろうか。傑作『不滅』執筆後に書かれたエッセーをまとめた本作では、芸術とは決して不滅のものではなく、その通俗的な側面のみ普遍的なものとして残されてしまう前作の主題に徹頭徹尾、抗おうとしている。カフカとヤナーチェクというチェコの代表的芸術家である二人を中心としながら、ここにあるのは時に作家至上主義に見えてしまう不器用なクンデラの姿だ。それはいつになく隙だらけでありながら、だからこそ時代の、歴史の、芸術の困難さを語ろうとする力に満ち溢れているのだ。

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2009/10/04

カフカ論がダントツに面白かった!今までのカフカ研究は確かにすごく偏ったものだし、それに対して同じチェコ人として、カフカを一人の人間と捉えて論じている。 ラシュディについても、クンデラらしいスタンスでの擁護が興味深かったし、翻訳論はぐんぐん読めたなぁ。 ただ、まぁ…相変わらず、奥が...

カフカ論がダントツに面白かった!今までのカフカ研究は確かにすごく偏ったものだし、それに対して同じチェコ人として、カフカを一人の人間と捉えて論じている。 ラシュディについても、クンデラらしいスタンスでの擁護が興味深かったし、翻訳論はぐんぐん読めたなぁ。 ただ、まぁ…相変わらず、奥が深くて難しい文章ですな。

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