アメリカの夜 の商品レビュー
最初の一文「ブルース・リーが武道家として示した態度は、「武道」への批判であった。」がこの本の底辺に流れる作者の意図をうまく言い表わしていると思います。 最初、長く複雑に修飾された文章は、意図的だと思いますが、読み手をあえて選んでるように思います。 読み進めると、どこまでが現実で...
最初の一文「ブルース・リーが武道家として示した態度は、「武道」への批判であった。」がこの本の底辺に流れる作者の意図をうまく言い表わしていると思います。 最初、長く複雑に修飾された文章は、意図的だと思いますが、読み手をあえて選んでるように思います。 読み進めると、どこまでが現実でどこからが頭の中の出来事かわからなくなるような感じがしてきました。 そんな一種浮遊感の中、最後の方で本のタイトルの意味を明かす所で、今までのモヤモヤ感が一掃されました。 かなり癖はありますが、作者デビュー作でおすすめの本です。
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物語はブルースリーに対する引用を交えた考察から始まり、長い時間をかけて旋回するようにラストへ向かう。この小説の面白いのは、その時間感覚だ。理想、現実、虚構、夢、夜や昼が全て同じ平面に並べられているような、並べるような書き手の感覚。しかしラストはちょっとした跳躍を見せる。それは漠と...
物語はブルースリーに対する引用を交えた考察から始まり、長い時間をかけて旋回するようにラストへ向かう。この小説の面白いのは、その時間感覚だ。理想、現実、虚構、夢、夜や昼が全て同じ平面に並べられているような、並べるような書き手の感覚。しかしラストはちょっとした跳躍を見せる。それは漠とした可能性を孕んでいるとともに、酷く安っぽい、文学としての表明だ。
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阿部和重さんのデビュー作を読んでみた。神町を舞台にした『シンセミア』や『ピストルズ』で強烈な印象を残している僕の好きな作家だが、このデビュー作でも彼の最近作の文体に近いものを感じさせる。阿部和重さんの作品になじめない人は物語というより、かれのSheets of wordsとでも言...
阿部和重さんのデビュー作を読んでみた。神町を舞台にした『シンセミア』や『ピストルズ』で強烈な印象を残している僕の好きな作家だが、このデビュー作でも彼の最近作の文体に近いものを感じさせる。阿部和重さんの作品になじめない人は物語というより、かれのSheets of wordsとでも言うべき、機関銃のような言葉の羅列によって語られていく物語に息苦しさを感じるのではないかと思っている。この作品は彼の自伝的要素も少しあるのでは。彼は日本映画大学を出ているらしいが、小説の主人公も映像の人間から文字でコミュニケーションを司る人間に自分を変えるんだとして、苦しんでいるのだが、これは多分本人の経験から来ている話だろう。ブックオフで200円だったが十分に楽しめた。ブックオフオンライン使い勝手よしです。
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非常に面白かった。以下、気に留まった部分の引用とコメント。 ”彼は一瞬にして、虚構と現実の間にある境が消滅してしまうといわれるような、距離感覚が極端な混乱に陥った状態となり、あからさまにうろたえてしまうという有様なのであった。” 主人公の恋愛が始まるときの描写。面白い。 ”...
非常に面白かった。以下、気に留まった部分の引用とコメント。 ”彼は一瞬にして、虚構と現実の間にある境が消滅してしまうといわれるような、距離感覚が極端な混乱に陥った状態となり、あからさまにうろたえてしまうという有様なのであった。” 主人公の恋愛が始まるときの描写。面白い。 ”それがほんとうの経験であれ嘘にすぎない架空の話であれ、等しくおのれを「特別」なものへと仕立てあげねば気のすまない身のうちでたえずはたらきつづける欲望によってつき動かされて語られていることにかわりはなく、その欲望がそれぞれの行為じたいを可能にしているのであり、自分も同様であると、唯生(注:主人公の名前)はおもうのだった。” ”にせの「特別」なもの、イメージの「特別」さが、じつはどこかにあるはずの真の特別なものをあらゆる場で陰へ追いやろうとしているようだ。” 主人公は上記のように考え、「にせの『特別』なもの」を否定し、それを象徴する「ガキども」と対決するのだが、結果として社会から孤立し、最後には「死」(これは作中で、ありのままの人間になることを指すと暗示されている)に惹かれる。そうして、最初に予告されていたように「哀しい」物語が完成するという構成になっている。
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メタフィクショナルな構造に一瞬とまどったが、その手法を押し通して素晴らしい。 同一である主人公、それを外から書く語り手。 主人公から派生したと思わせて、書き手から派生した主人公であり、最後にはその主人公すら虚構に過ぎない。 そう、虚構小説。つまり独白本。 ブルース・リーの「型と...
メタフィクショナルな構造に一瞬とまどったが、その手法を押し通して素晴らしい。 同一である主人公、それを外から書く語り手。 主人公から派生したと思わせて、書き手から派生した主人公であり、最後にはその主人公すら虚構に過ぎない。 そう、虚構小説。つまり独白本。 ブルース・リーの「型と実践」をめぐる堂々巡り、そしてそのある意味遠回りな理屈っぽさが、全体を言い表していると思う。 単純に、好きだ。
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著者のデビュー作品。 語り手=主人公=もう 1 人の自分という形式で、 虚構の真実を求め、 ひたすら自己批判・自己探求を繰り返す。 意外に読み易い。 フィリップ・K・ディックの K が、 キンドレッドであると初めて知った。 1994 年 第 34 回群像新人文学賞受賞作品。
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グランドフィナーレより全然好きだ。 主人公中山唯生をもうひとりの中山唯生が見つめていて、バイト先で暇なときに読んでいる読書と、それを書き留めたノートと、現実生活をリンクさせるように論文調に書かれている。 最初に「ブルース・リーは〜」って出てきたときは、ああ私にはダメなタイ...
グランドフィナーレより全然好きだ。 主人公中山唯生をもうひとりの中山唯生が見つめていて、バイト先で暇なときに読んでいる読書と、それを書き留めたノートと、現実生活をリンクさせるように論文調に書かれている。 最初に「ブルース・リーは〜」って出てきたときは、ああ私にはダメなタイプの話かなぁと思ったけど、読み進めるうちにどんどんのめりこんでいった。 中山唯生は「気違い」になりたくて奮闘するお話。ちょっと大江健三郎の香りがした。
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