ロッキード裁判とその時代(4) の商品レビュー
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1994年(底本84年?)刊行。 元首相が一・二審で有罪判決となったロッキード事件(上告審中死亡のため公訴棄却)。本書は、その一審での裁判傍聴記録である。全4巻中の第4巻。 実は、本シリーズは94年の刊行当時に1~3迄購入し読破した。ところが、4巻を買いそびれ、その後も気にしながらも、見つけられず買えずにきた。 今般、古書店で漸う発見したので迷わず購入。 その読後感は、印象は変わるものだなぁ、というもの。 そもそも、1~3までを読破した、1994年頃は、リクルート事件・東京佐川急便事件等の自民党への贈収賄事件は根絶せず、ロッキード事件も同時代感をもって読んでいたよう。 ところが、今読むと、全然違う観点から見ている自分に気づく。 本書の短所は、週刊誌連載の悪癖、つまり、繰り返し自分の主張を脈絡なく挿入する点だ。 もちろん、公判全体から受ける印象としては、著者の指摘に近いが、全体を眺めて読むと、自己主張の繰り返しが鼻につくのだ。 しかし、本書は短所を遥かに凌駕する長所を持つ。 本書の叙述の中核は、被告人の有罪・無罪を立証していく過程において、主張と書証の噛合い、書証の不備を埋める個々の尋問の具体的な狙いや命題、それらが立証命題に対して奏効・不奏効しているかを強く意識して叙述する所だ。 しかも、訴訟戦略とは異質の、田中の政治的意図とも絡ませて叙述しているのが光る。 こんな観点から叙述する記事は、凡百の裁判傍聴録では、ほぼ無いものだ。 換言すれば、著者は贈収賄罪の構成要件や、刑事訴訟手続の概要を熟知しつつレポートしているのが判るのだ。 この叙述方針は連載全体にわたっているものだが、その極め付けが、被告人らや証人(その中でも贈賄側被告人)の検察官面前調書の任意性立証の件であろう。 つまり、ガチガチに争う重大事案の醍醐味がここで描かれ、これを追体験するのに本書ほど相応しい書はないことが浮かび上がってくる。 とはいえ、かなり細かい政治状況までクロニクルで叙述していること、ロッキード事件に括られる案件は、複数事件として存在する点、被告人らの背景・立場・利害も様々(丸紅・全日空・政治家)、贈収賄の立証命題の相互関係はもちろん、さすがに取調べの任意性立証は専門的に過ぎる。 このような錯綜がある点と、専門的知識を要するため、少し読みにくいかも知れないなぁ、と感じてしまうところだ。
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