イスラム・ネットワーク の商品レビュー
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”イスラム世界における最初の錬金術者は、八世紀に活躍したクーファ生まれのジャービル・イブン・ハイヤーン(西洋ではj-ベルとよばれる)であるが、その著(最近は、十二世紀頃にスーフィズムの傾向を持つ純潔同胞会の人びとにより書かれたとする説が有力である)において、彼は金属を構成する根本物質は水銀と硫黄であり、両者の蒸気が結合することにより種々の金属が生まれると説き、金や銀の人工的な合成は可能であるとした。そのために、イスラム世界では、蒸留が錬金術のもっとも重要な工程として位置づけられ、種々の蒸留器(アランビーク)が考案された。こうした考え方はイスラム科学の中に組み込まれ、卑金属を貴金属に変えるための「賢者の石(エリクシル)」として、水銀が重視されることになった。” P.112より アラビア、ひいては西洋における錬金術は、中国の錬丹術をもとにしているのではないかという説、腑に落ちた観がある。蒸留についても。 トールキンの『指輪物語』を読破してから読書には常に「パイプ草」症候群の危険があることに気づいた。 中央公論社の全六巻版では「パイプ草について」という論考が本編に先んじる。これは大いなる罠で、読まなくてもよいものなのに本編到達前に挫折者を量産する。 本書の第一章もパイプ草であった。テツガク臭がきつくてのっけから挫折しそうだった。 そこを通過すれば、待ち受けていたのはまさに望んでいたような内容で、個人的世界史観に欠けているピースを埋めるものだった。アラビアンナイトの世界、すなわちアッバース朝の歴史である。引用した錬金術の下りは望外のおまけで、「なんで蒸留?」「錬丹術と錬金術は関係があるのか?」という漠然とした疑問にどストライクな回答が得られたことになる。 ちょっと前に、大航海時代に先んじて明がアフリカに到達していたというような話題があったが、あれはなんだったんだろう。 本書によれば、八世紀にはすでにアラビア圏と唐が交易していた事実があるとのことで、なんとなく現代においてはアラビアが見落とされ続けているという印象を新たにする。 余談だが、アッバース朝の頃にはすでに日本は黄金の国として知られていたようで、倭国すなわちワクワクと呼ばれていたそうな。
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文化というよりは商業の物流に注目して、どこからどこへ、どんな商品が輸送されていたのか具体的に書いてあります。 日本を黄金の島だという噂がイスラム圏に伝わっていたとうのは、へえーと思いました。
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主に交易ネットワーク形成の視点からアッバース朝を研究しています。 著者のダイナミックな歴史観は興味深く、かつてシルクロードがつくった交易ネットワークをこのアッバース朝ネットワークが受け継ぎ、それが同時代の唐の交易ネットワークを結びつき、やがてモンゴル帝国の大交易ネットワークへとつ...
主に交易ネットワーク形成の視点からアッバース朝を研究しています。 著者のダイナミックな歴史観は興味深く、かつてシルクロードがつくった交易ネットワークをこのアッバース朝ネットワークが受け継ぎ、それが同時代の唐の交易ネットワークを結びつき、やがてモンゴル帝国の大交易ネットワークへとつながっていく・・・。 アッバース朝はイスラーム世界だけでなく世界史全体に大きな影響を及ぼしましたが、その中の一面に迫ることができ、面白かったです。
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