中国現代戯曲集(第1集) の商品レビュー
『逃亡』が上演されると知って、ひとまずそれだけ読む。 不条理劇だと聞いて読み始めたものの、読み終えたらこれが不条理劇ではないと分かった。青年、娘、中年の男どの登場人物もその場(もしくは感情)からの逃亡を目指しており、彼らの心情も移り変わっていく。しかし状況が変化するかというとそ...
『逃亡』が上演されると知って、ひとまずそれだけ読む。 不条理劇だと聞いて読み始めたものの、読み終えたらこれが不条理劇ではないと分かった。青年、娘、中年の男どの登場人物もその場(もしくは感情)からの逃亡を目指しており、彼らの心情も移り変わっていく。しかし状況が変化するかというとそんなことはないので、彼らが置かれた状況はやはり不条理なものなんだなぁ… 『逃亡』というタイトルの通り、彼らは天安門のあの広場から逃げ出してきたデモ参加者である。しかしその言葉が意味するのはその行動自体ではなく、彼らが置かれた状況や死の恐怖や、後悔、孤独や理不尽といった感情からの必死の「逃亡」をも意味しているように感じる。 それらの感情から逃れるために青年は勇敢になり、娘と中年は女優と俳優になり、恋人を演じる。それらが死に直面した人間の必死の逃亡なのだけど、それぞれの役を演じ切ってしまったあとはみんな等しく泥水の中で不安に膝を抱えるしかない。人は怒りや正義感でざまざまな感情を覆っているだけで、すべて剥がして文字通り素裸では子供も大人も大差なくただただ弱くあるしかない。苦しいなあ……
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