メダルと恋と秘密警察 の商品レビュー
2023.8.20市立図書館 図書館のフェアの本棚で見かけて、なつかしいなあ、カタリナ・ビット好きだったなあ(私もだが、父のお気に入りだった)、と手に取った。 現役当時は東ドイツ代表として活躍したフィギュアスケーター、カタリナ・ビット。訳者あとがきによると、ドイツ統一に伴って閲...
2023.8.20市立図書館 図書館のフェアの本棚で見かけて、なつかしいなあ、カタリナ・ビット好きだったなあ(私もだが、父のお気に入りだった)、と手に取った。 現役当時は東ドイツ代表として活躍したフィギュアスケーター、カタリナ・ビット。訳者あとがきによると、ドイツ統一に伴って閲覧可能になった旧東ドイツの国家文書に7歳の頃から監視されてきた自分の人生が細かく記録されているのを読み、自分の手であらためて半生を書くことにしたという。「はじめに」をよむと、マスメディアを通じたイメージ操作への懸念もあって、自分の真実の姿を知ってもらいたいという一心で書くことにしたが、書く過程で故国のありかたなど改めていろいろなことがわかるようになったという。とあるスケーターの半生である以上に、試合などで西側の国々を見ても、自分の属する国は貧しいながらもみな平等に取りこぼされることはない国だと素朴に国を信じ愛していた少女が、東西ドイツの統一をどのように受け止め消化しようとしたか、統一後の生活の変化に苦しみさまざまな問題を抱える旧東ドイツの人々の立場を代弁するものと考えられるかもしれない。 旧共産圏の東ドイツで国家から手厚い保護を受けて活躍したエリートへの国民感情は、日本の皇族に向けられるそれと重なる部分が多いと感じた。また、30年以上前から、こわいストーカーはいるし、勘違いしたファンもいるし、そういうものに悩まされながら閉鎖した人間関係のなかでプレッシャーと戦うアスリートの世界なのは相変わらずなのだなと思った(ドナルド・トランプとか日本の画家(?)のエピソードにはおどろいた)。 フィギュアスケートそのものについての記述も興味深かった。試合の公式練習(6分間練習?)でそれぞれの使う音楽をかけるのもビットが役員にかけあって以来らしく、技術中心プログラムから音楽も込みで表現・芸術性を重視する流れはトービル&ディーン組らアイスダンスからビットあたりが先駆けと言えるらしい(これは私自身もそう感じていたし、だからこそ好きだったのだと思い出す)。 最近はあまり名前を聞かなくなってるけれど、スケートだけじゃない人生を楽しんで暮らしているのだといいなと祈る。
Posted by
ビゼー作曲の「カルメン」。フィギュアスケートでは多くの選手が使用して 来た曲だ。「カルメン」といえば黒×赤の衣装との概念を覆し、黒×黄色 の衣装で情熱を抑えたクールなカルメンを演じたマリア・ブッテルスカヤ は美しかった。あ、この人は何をやっても美しいんだが。 男子版「カ...
ビゼー作曲の「カルメン」。フィギュアスケートでは多くの選手が使用して 来た曲だ。「カルメン」といえば黒×赤の衣装との概念を覆し、黒×黄色 の衣装で情熱を抑えたクールなカルメンを演じたマリア・ブッテルスカヤ は美しかった。あ、この人は何をやっても美しいんだが。 男子版「カルメン」の金字塔と言えば私の初代王子様、ヴィクトール・ ペトレンコだと思っているし、ソルトレイク・オリンピックで自力優勝の 可能性がなくなった後のエフゲニー・プルシェンコの「(やけくそ)カル メン」は会場で見ていて鳥肌が立った。 多くの名演技のなかでも未だに「カルメン」と言えばこの人なのが東 ドイツ代表のカタリーナ・ビットだ。ライバルであったアメリカのデビ・ トーマスとの「カルメン」対決となったカルガリー・オリンピックでの 演技は今でも色褪せない。 そのビットが東西ドイツ統一後、28歳の時に出版したのがこの自叙伝だ。 ベルリンの壁崩壊後、それまで東ドイツのスポーツ・エリートだったビット は一部のメディアによって非難される。 「ビットはシュタージ(秘密警察)の手先だった」 まったくの事実無根。こんな報道がなされたのはビットが東ドイツの悪口 を言わなかったからだ。本書はそんな一部メディアへの反論の為に書かれ たようだ。 勿論、冷戦真っただ中の東ドイツでスポーツ・エリートや秀でた芸術家が シュタージと接触することは避けられない。だが、ビットはシュタージの 手先どころか監視されていた。それもフィギュアスケート選手として頭角 を現わした7歳の頃からベルリンの壁が崩壊するまでずっと。 全27冊、3103ページにも及ぶシュタージによるビット関連の報告書。本書 ではその一部の内容を掲載しながら、報告書に対するビットの反論が 記されている。 そりゃね、東側ではある程度の監視はされていたのは知っていたよ。それ にしても寝室での出来事まで報告書になるのかよっ。怖いよ、シュタージ。 その時、その時にビットが交際を持った異性とその問題点、競技人生を 支えたミュラー・コーチとのいざこざ。西側への亡命阻止の為の作戦等々。 ビットの生活の隅から隅まで、シュタージは監視の目を張り巡らせていた。 シュタージの報告書ばかりではなく、トレーニングの辛さ、子供の頃の自身 の思い上がり、「ここまで書いて大丈夫か?」と心配になるほどの異性関係 (既婚男性を含む)を赤裸々に綴っている。 あぁ…カルメン、あまりにもぶっちゃけすぎです。若き日のドナルド・トランプ に電話番号を渡されたけど、無視して電話しなかったとか。 「それに、いつの間にかフィギュア・スケートが単なるジャンプ競技になって しまったことに、二人とも不満だった。わたしが大嫌いなコンパルソリー、あ の、わたしがトレーニング時間を合計するとおそらく何カ月も費やしたコンパ ルソリーが一九九〇年に廃止されてから、選手全員がジャンプのトレーニン グにもっと時間を割くようになったのだ。十五、六歳の子が三回転を何度も やっているのを見ると、こっちはめまい寸前だ。 フィギュアはこの方向にすすんでいっていいものだろうか?」 プロ転向後にリレハンメル・オリンピック出場を決意した時のビットの思いだ。 これ、賛成しちゃう。できればわたしゃコンパルソリーを復活させて欲しい のだもの。 良くも悪くも、自分の欲求に正直で、感情豊かで、率直な人なんだろうな、 ビットって。だから恋愛関係も、コーチとの時にぎくしゃくした関係も赤裸々 に綴るしかなかったのだろう。 あの当時、東側がどんな国だったのかを知るにはいい。難点は時系列で ないこと。話が28歳の時点から過去に飛ぶことがあって少々読み難かっ たな。 「銀盤の女王」カタリーナ・ビット。カルガリーの「カルメン」は今見ても 女王様オーラ全開だ。尚、私の「絶対女王」はイリーナ・スルツカヤだけ どね。(^^ゞ
Posted by
- 1