クレティアン・ド・トロワ『獅子の騎士』 の商品レビュー
粗筋がいりくんで、さらに独特の記述なのでわかりにくいので(物語の成立過程にもかかわるのだろう)、記憶をたよりにまとめる。イヴァンは自分がその夫を殺した未亡人ローディーヌを愛し、侍女のリュネットの助けもあり、妻にするが、彼女との約束を守れなかったため、アーサー王たちのもとから去る。...
粗筋がいりくんで、さらに独特の記述なのでわかりにくいので(物語の成立過程にもかかわるのだろう)、記憶をたよりにまとめる。イヴァンは自分がその夫を殺した未亡人ローディーヌを愛し、侍女のリュネットの助けもあり、妻にするが、彼女との約束を守れなかったため、アーサー王たちのもとから去る。紆余曲折の末(この過程で、ライオンを伴にし『獅子の騎士』と自称)、再び彼女のもとに戻る。分かりにくいのは、例えばなぜゴーヴァンとイヴァンは互いを知らずに闘うことになったのかということ。まず、ある領主の娘二人、姉と妹の相続権の問題でそれぞれを擁護する騎士が決闘することになり、妹が『獅子の騎士』で評判のイヴァンを探しだした。姉の側につくのがゴーヴァン(→なぜだろう??騎士道精神?)。イヴァンは未亡人のローディーヌ(彼の妻)とは別件でアーサー王のもとへ戻った。騎士道精神が、あまり利害関係がない他人のこうした願いを聞き入れるのだろうか。それが、極端な物語展開のトリガーになっている?。
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12世紀のフランスの天才物語作家クレチャン・ド・トロワ「獅子の騎士」の解説・研究書だが、内容上「獅子の騎士」全訳が収録されている。本編を読んで、解説・研究部分を読むとさらにおもしろい。 「獅子の騎士」はイヴァインの物語。クレチャンの中でも特に完成度の高い作品。原型はマビノギのアル...
12世紀のフランスの天才物語作家クレチャン・ド・トロワ「獅子の騎士」の解説・研究書だが、内容上「獅子の騎士」全訳が収録されている。本編を読んで、解説・研究部分を読むとさらにおもしろい。 「獅子の騎士」はイヴァインの物語。クレチャンの中でも特に完成度の高い作品。原型はマビノギのアルスル宮廷のロマンス、「ウリエンの息子オウァインの物語(泉の女)」で読める。マビノギの方もおもしろいのだが、伝承なので物語のつじつまが合ってなかったり、ツッコミどころも多い。(ツッコミが楽しいし、そこが魅力ではあるのだが) クレチャンはキャラクターの心理描写と全体の構成に重点を置いて物語の整合性をとり、よりドラマチックで、現代のエンターテイメントと較べてもまったく遜色のない作品に仕立てた。 主人公イヴァインの成長と騎士の花ゴーヴァン(ガウェイン)との友情、泉の貴婦人ローディーヌとの愛と喪失とその愛の回復、同時進行する複数の危機をイヴァインがどう乗り切るかなど、友情と恋と冒険と揃って質のいいアクション映画のようだ。ブルターニュ物のなかでも、特にお勧めの作品。一冊で完結した、アーサー物の中でも独立した物語なので、古典作品の入門としても薦める。 この作品はその後、ドイツのハルトマン・フォン・アウエによってドイツ版に翻案される。ドイツ版は郁文堂の「ハルトマン作品集」に収録。 原型であるマビノギの「オウァインの物語」は以下の本に収録されている。 ・「マビノギオン―中世ウェールズ幻想物語集」(JULA出版局) ・「マビノギオン―ケルト神話物語 シャーロット・ゲスト版」(原書房) ・ブルフィンチ「中世騎士物語」(岩波文庫)「泉の女」として収録。
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