上山春平著作集(第4巻) の商品レビュー
『埋もれた巨像―国家論の試み』(1977年、岩波書店)と『日本の国家像』(1979年、新NHK市民大学叢書)のほか、5編の論文を収録しています。 著者は『神々の体系』正・続(ともに中公新書)で、藤原不比等を律令制度のプランナーとして位置づける試みをおこなっています。本巻に収録さ...
『埋もれた巨像―国家論の試み』(1977年、岩波書店)と『日本の国家像』(1979年、新NHK市民大学叢書)のほか、5編の論文を収録しています。 著者は『神々の体系』正・続(ともに中公新書)で、藤原不比等を律令制度のプランナーとして位置づける試みをおこなっています。本巻に収録されている『埋もれた巨像―』と『日本の国家像』の二作品は、こうした著者の考えを整理しなおしたうえで、著者の構想する日本文明史に対して古代律令制度がどのような意義をもつのかということについて論じています。 著者はまず、中国において採用された儒教の「革命」思想を排して、天皇の血筋に正統性を置く非革命的な国家制度を基礎づけたところに、記紀神話の意義を見いだしています。すでに津田左右吉は、記紀神話を6世紀における国家的イデオロギーとして解釈しました。これに対して著者は、8世紀においてみずからの嫡系を天皇の位に就けようとした持統天皇の企図に不比等が協力し、同時に天皇を中心とする律令制度のもとでみずからの権力を拡張しようと試みたのではないかという主張をおこなっています。 こうして著者は、古代における律令国家体制がどのように形成されたのかを明らかにしたうえで、その余波は現代にまでおよんでいるといいます。ただ、この点にかんする著者の議論は、元号や大嘗祭のありかたといった特殊なテーマにかぎられているように見えます。たとえば丸山眞男の「古層」論は、日本思想史の根底にまでその射程が届いているのに比較すると、やや見劣りがするようにも感じられます。
Posted by
- 1