真昼のプリニウス の商品レビュー
62ページで挫折。 この人は、どうも、「場面」をつなぐように作る、という 基本的なことが分かっていないんじゃないかな、という気がする。 シナリオでは、「場面」で作っていく、というのはもっとも基本的な 考え方で、映像に携わる人間は、当然、全員理解している。 映画であれ、ドラマで...
62ページで挫折。 この人は、どうも、「場面」をつなぐように作る、という 基本的なことが分かっていないんじゃないかな、という気がする。 シナリオでは、「場面」で作っていく、というのはもっとも基本的な 考え方で、映像に携わる人間は、当然、全員理解している。 映画であれ、ドラマであれ、アニメであれ、そうだし、 映像的な、漫画でもそう。 しかし、同じ「ストーリーを基本にしたフィクション」という分野でも、 演劇と、小説だけは、この「場面」で作るという方法を 理解していなくても、作ることができる。 演劇は、そもそも、めまぐるしい場面転換には不向きなジャンルなので、 1カット1シーンで、作れてしまう。 小説には「映像」が出てこないので、「場面」的な思考が 出来ていなくても、一応、作れてしまう。 しかし、この「場面」的な思考ができていないと、 話にまとまりがなく、ぐだぐだな印象になる。 エッセイとか論文に近くなっていってしまうのだ。 といっても、エンターテイメント小説にありがちだが、 「場面」思考が行き過ぎると、文章にコクのない、 ペラペラな印象になってしまうので、 適度に「小説特有部分」というのは、残した方が面白いのだが。 (あとは、高橋源一郎のように、最初から「物語性」を放棄 している場合は、関係ないのだが) それにしても、この池澤夏樹という人、 世界文学全集のセレクトなどしていて、「本読み」としては たしかな蓄積があるようだが (現に、本作も、文学として、おさえる所は、おさえられていて、 誠実な作りであると言っていい。文学賞を取っているような 作品でも、本作ほど「文学らしい」部分をおさえていない作品など、 いくらでもあるであろう) しかし、なにか、基本的なことが分かっていない。 「場面」としての思考がまったくできていないこともそうだが、 「ダイアローグ」が会話に見えず、地の文にしか見えないとか。 恋人からの手紙、というのが来るのだが、ここで、 長々と、メキシコ奥地での体験の報告、というのがされている。 その「体験」を描くのが「ストーリー」だろうが、 と思うのだが、これをただの「報告」にしてしまっている。 こういうことがありました。こう思いました。終わり。 では、読者の入る余地がない。 読書というのは「仮想体験」の装置なのだから、 もしメキシコのことが書きたいのであれば、 メキシコに行った恋人を主人公にして書くべきであろう。 また、主人公の女性が「何とかと思った」と思考するのだが、 そうではなく、話の流れの中で、読者が「何かを思う」つまり 「何かを思わせる」のが、フィクションである。 作者の「答え」を、いきなり書いちゃあ、駄目なのである。 どうもこの人、「文学」はよく読んでいるようだが、 そういう基本的なことが分かっていないようなので、 読んでいて、非常に違和感がある。 そして、とにかく、話の切れが悪い。 主人公の女性も、一貫して受け身なのだが、 もう少し、自発的に動く、推進力のある奴を、 主人公にした方がいいのではないかと思う。 (恋人とか、電話サービスを作ろうとしている男とか) ということで、違和感があるので中断。 今後も池澤セレクトの「世界文学」は読むつもりだが、 「眼高手低」ということなのかなあ、とちょっと思う。
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情報の提供サービスを夢想しつつも、自身は物語も神話にも信じられなくなっている男。心にかかったフィルターが強過ぎて自分の直感さえも本物か贋か分からなくなっている。 一方は科学者の女性。自分は正しく世界を観測し分析していると思っているが…。 うさぎの例え話のように、その先に危険が待...
情報の提供サービスを夢想しつつも、自身は物語も神話にも信じられなくなっている男。心にかかったフィルターが強過ぎて自分の直感さえも本物か贋か分からなくなっている。 一方は科学者の女性。自分は正しく世界を観測し分析していると思っているが…。 うさぎの例え話のように、その先に危険が待っていたとしても何があるか知りたいという本能に従い火口へと赴く。 ストーリーと言えるほどのものはないけど、人物や事象の一つ一つが象徴として機能しているあたりが池澤夏樹さんの凄いところです。とても心に響く一冊だった。
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あー。これはすごい面白い。 物語が読み手の手から離れて、(確かな力量のある著者の手によって)幻想的なイメージで展開し、楽しませてくれる。 下手な人が書けば「だからどうなの?」となりそうな展開。 計算ずくで書いているのだろうと思うけど、これが天然で素だったらすごいなぁ。す...
あー。これはすごい面白い。 物語が読み手の手から離れて、(確かな力量のある著者の手によって)幻想的なイメージで展開し、楽しませてくれる。 下手な人が書けば「だからどうなの?」となりそうな展開。 計算ずくで書いているのだろうと思うけど、これが天然で素だったらすごいなぁ。すごかった。
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図書館で見つけて借りてみました。著者のお名前がひっかかったのと、表紙がウィリアム・モリスの模様だったので気に入って(笑) もっと惹かれるかなあと思ったら、そうでもなかった。作中で取り上げられる要素は面白そうだったけど、人物像があまり好みではなかった。頼子は男性から見ると魅力的な...
図書館で見つけて借りてみました。著者のお名前がひっかかったのと、表紙がウィリアム・モリスの模様だったので気に入って(笑) もっと惹かれるかなあと思ったら、そうでもなかった。作中で取り上げられる要素は面白そうだったけど、人物像があまり好みではなかった。頼子は男性から見ると魅力的な女性なのかなあ?門田さんはすこし描かれ方がかわいそうな気すらしたし。あとは「物語や言葉ではなく、感覚や本当の感情」といったことが書かれていたけど、私はわりと言葉を大事にしたいと思っているから、反発を覚えてしまったのかもしれない。この中だったら卓馬が好きかも。もっと出てきたら面白そうだった。
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透明感があって読みやすい文章のわりに、前半はなかなかエンジンがかからなかった。ぼやっとした印象がぬぐえなくて。読み終わった今もぬぐえたとは思えないんだけど。 でも、ラストでの野うさぎの話、題名に込められたものを垣間見たとき、なるほどと思いました。 答えははっきりしていないけど、た...
透明感があって読みやすい文章のわりに、前半はなかなかエンジンがかからなかった。ぼやっとした印象がぬぐえなくて。読み終わった今もぬぐえたとは思えないんだけど。 でも、ラストでの野うさぎの話、題名に込められたものを垣間見たとき、なるほどと思いました。 答えははっきりしていないけど、たぶんそれでいいんだろう。 しかし、池澤夏樹さんを読むきっかけの一冊にはオススメできないかな。他の作品から読み始めて欲しいな。
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火山活動についての研究者である主人公の頼子は、日々忙しく研究にいそしむ一方で、仕事と日常の間の折り合いのつけ方に、心の底のほうで疑問を抱いている。 ある日、弟の友人である広告マンが、頼子のもとに、変わった話をもってくる。電話を利用したサービスを企画しているのだという。 その...
火山活動についての研究者である主人公の頼子は、日々忙しく研究にいそしむ一方で、仕事と日常の間の折り合いのつけ方に、心の底のほうで疑問を抱いている。 ある日、弟の友人である広告マンが、頼子のもとに、変わった話をもってくる。電話を利用したサービスを企画しているのだという。 その企画の名称は『シェヘラザード』。色々な分野に関する短いエピソードを大量に集めて、利用者がその番号にダイヤルすると、その中からランダムにひとつのストーリーが選ばれて、読み上げられる。 その話のひとつひとつには、意味はありそうであまりない。何が出てくるか分からないことが、価値なのだという。ふとした日常の隙間にダイヤルしてみて、飛び出してきた話が好みに合うかどうかは分からない。人は意味や意義や目的や効率に飽きていると、広告マンは言う…… うーん、一応書いてはみたけれど、この小説に関しては、あらすじを書いてもあまり意味がないのかな、という気もしています。 ストーリーがどうというよりも、そこに載せられたテーマ、思想、生き方や概念、そういうものへの共感や驚きが、この小説のポイントなのかなと思います。 池澤さんの本の魅力のひとつに、その豊富な幅ひろい知識と、独特の澄んだ視点があります。ものごとの見方というか…… ……ああ、なんと言ったら伝わるのかな。たとえば鳥や虫や草木、夜空に瞬くはるか遠くの星、火星の赤い砂漠、上空を循環する大気の流れ、火山の内部で起きていることや、熱帯の森に埋もれた古文明の遺跡、木々の闇にひそむもの。 その語られる分野は広く、たとえば自然科学、地球の歴史や天文、気候や風土、文化や芸術、民俗や信仰、戦争や歴史――この世界のありよう、そこに生きるものたちについて、ひどく広いさまざまな視点から、それも抽象的な概念ではなく、肌で感じるものとして、語られている。世界に向き合う姿勢というのか…… うう、書けば書くほど、何か書きたいこととずれていくような気がする。 変な書評になってしまいました。 読む人によって好みは分かれるかもしれないのですが、すごく好きな一冊です。
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この人の本は科学と神秘のブレンド具合が好み。よく言われているけど、じめじめしてない透明な文章も好き。この主人公は少しきれい過ぎて、共感もできず興味もさほど惹かれるわけではなく…ではあったけど。
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職業を持った女性の強さについて、池澤夏樹の描写はおかしな特殊やプライドや偏見に凝らず、読み心地がいい。 男性、女性いずれにせよ、池澤夏樹のキャラは完全に良い意味での中性さが濃くてだからはまりやすいと感じる。 私も河口に寝そべれるような自分の外枠に向かっての恋がしたい。
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今年になって池澤夏樹とは出会った。畳み掛けるように彼の作品を読み漁る。彼の世界と言うべきか、作風が体に染み渡ってくる。全く不快感はなく一種の高揚感を感じる文章。この作品も何となく消化できた。でももう少し時間が欲しい。自分の中の別のものとの反発が何か消化しきれないところがあるみたい...
今年になって池澤夏樹とは出会った。畳み掛けるように彼の作品を読み漁る。彼の世界と言うべきか、作風が体に染み渡ってくる。全く不快感はなく一種の高揚感を感じる文章。この作品も何となく消化できた。でももう少し時間が欲しい。自分の中の別のものとの反発が何か消化しきれないところがあるみたいだ。
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5/1 好きです、池澤夏樹。いつも大学の図書館で借ります。ページを開くと、たくさんの本に囲まれてた“あの”匂いがします。 「スティル・ライフ」に比べて、前半部分なかなかエンジンがかからず、正直つまらんなぁ思ったんだけど、後半部分の、特にラストの畳み掛けが上手かった!自分が経験した...
5/1 好きです、池澤夏樹。いつも大学の図書館で借ります。ページを開くと、たくさんの本に囲まれてた“あの”匂いがします。 「スティル・ライフ」に比べて、前半部分なかなかエンジンがかからず、正直つまらんなぁ思ったんだけど、後半部分の、特にラストの畳み掛けが上手かった!自分が経験したことある感情だから、なおさら。 全てを知りたいと思う好奇心は罪なのだろうか?「われわれはテレビのブラウン管の表面を歩いてる虫なんじゃないか」と思うことから全て始まるのではないか。
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