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2019/10/18

『月と六ペンス』派生読書。 モームがゴーギャンの生涯に触発されて書いたという『月と六ペンス』。強烈だが、どこか釈然としないところも残る。はてさて、こんなお話をモームに書かせたゴーギャンは、実際、どんな絵を描き、どんな人生を送った人物だったのか。 解説付きの画集を読んでみた。 株...

『月と六ペンス』派生読書。 モームがゴーギャンの生涯に触発されて書いたという『月と六ペンス』。強烈だが、どこか釈然としないところも残る。はてさて、こんなお話をモームに書かせたゴーギャンは、実際、どんな絵を描き、どんな人生を送った人物だったのか。 解説付きの画集を読んでみた。 株式仲買人から画家に転じ、南洋に憧れ、病魔に斃れた、と大筋ではモームが描いた通りなのだが(そして横柄で傲慢なのもその通りだったのだろうが)、評伝を読み、絵を眺めていると、何とはなしにこの強烈な個性を持った画家の「有り様」が小説よりも「腑に落ちる」感がある。 画家でもないし、ゴーギャンが仲間と戦わせた絵画論の深いところまではよくわからないが、彼には確かに追い求める理想があって、そこに向かっていたのだろう。世間の無理解や生活の貧窮、家族とのすれ違いがあっても、画家には画家の矜持があり、目論見があり、そして困難の中、「完成」へと歩みを進めていたのだ。 最後に彼がたどり着いた南洋の、どこかごつごつとした女たち。日差しの中に潜む影を感じさせる色彩。神話的な物語を感じさせる構図。 そこに行きついたのは画家にとっては「必然」であったのだろう。 1つおもしろいのは、同業画家でゴーギャンを支援したシュフネッケルの家族を描いた1枚。『月と六ペンス』中では、ストリックランド(≒ゴーギャン)がストルーヴェ(≒シュフネッケル)の妻と不倫関係になり、大きな悲劇を巻き起こす。ゴーギャンがシュフネッケル夫人を誘惑したという説があるにはあるようだが、実際のところ、夫人はなかなかに厳しい性格で、ゴーギャンは彼女を「ハルピュイア(鳥の体・女の顔を持つ怪物、転じて強欲な女)」、「鉤釘(転じてうるさい奴)」と称していたという。シュフネッケル自身もどうやら恐妻家だったようである。ゴーギャンが描いた「シュフネッケルの家族」では、厳しい表情の夫人の傍らで、子供たちが寄り添い、夫のシュフネッケルは隅で揉み手をして立っている。なんだか家族関係が思いやられるような1枚である。(まぁそれにしても、ゴーギャンも散々世話になっておきながら、しかもよそ様の夫人をなんという呼び方をするものか、とは思うけれどもw) 絵は大判で見やすいが、やはりこの強烈な色彩を真に鑑賞するには、実物を見るべきなのだろう。機会があればぜひ見てみたい。 画家の目論見を完全に理解することは難しいだろうけれども。

Posted byブクログ